デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2004.09.30製品開発マネジメントにつなげるユーザリサーチ

同じコンテンツをウェブと印刷の両方で使えるようにデザインする作業を、現場のデザイナーはどうこなしているのか?アドビシステムズ社のユーザリサーチマネジャーであるシェリル・エーリヒに与えられた課題は、クロスメディア出版というこれから広がる市場を理解することだった。理想を言えば、さまざまな業態の企業を訪問して、デザイナーの作業を一つ一つ観察したいところだ。しかしリサーチにかけられる費用も時間も限りがある。また標準的な方法が確立していないクロスメディアという分野でいきなり調査を始めても、各人各様のやり方があるというだけで焦点が定まらないかもしれない。 d_01_d001

そこで編み出したのが、まずコストをかけずに社内にある知識源を活用することだった。アドビシステムズ社はInDesign, GoLiveといったDTPやウェブデザインのアプリケーションを提供している。そして開発部門が行った調査結果の文書は、イントラネットのどこかに蓄積されている。ただ従業員3,700人、開発拠点も米国内はもとよりインドなどにも散らばっている企業では、社内にどんな知識が蓄積されているか、人のネットワークを使わなければ探し出せない。

ユーザリサーチチームは各製品の担当者に会い、過去のリサーチ結果やそこから得られたポイントを聞き出した。この作業によって、製品開発者がユーザリサーチによって何を知りたいかを明確にすることができた。

そしてユーザリサーチ部門が中心となって社内のアプリケーション開発者を招き、ブレインストーミングをした。各製品の開発チームには、自分達が想定しているワークフローがあるはずだ。そのワークフローの各段階での作業者、ツール、予測される困難を書き出した。また記述にどれだけ確信を持てるかも聞いた。それによって、ワークフローのどの部分がよくわかっておらず、重点的な調査が必要かをはっきりさせたのである。

その上でリサーチチームはユーザ企業に出向き、実際のワークフローを調査した。その結果、現実のデザイナーは開発者が想定しているほどクロスメディア出版の体制を整えていないことがわかった。また調査の結果わかったワークフロー上の困難も、開発プロセスへのインプットになったのである。

シェリルは「予算の都合から低コストのユーザリサーチ方法を開発しなければならず、その制約が社内の知識とユーザ調査を組み合わせるハイブリッドなリサーチ方法を編み出す結果になった。しかしそのおかげで、ブレインストーミングを通じて参加意識を持った製品開発者らが、プロジェクトの最後まで積極的に関わってくれた。」といっている。これまでの製品開発の文脈と分断されないリサーチ方法をとったために、彼女らの行動が支持されたということであろう。

しかし考えてみると、新しいニーズに対応する製品開発に向けて人的ネットワークやそれに伴った知識の流通を整備するのは、本来マネジメントの仕事である。だがユーザリサーチチームがエンジニアリングの中で最もユーザに近い位置にいたため、この必要性に直面し、自ら行動を起こしたといえる。ユーザリサーチが個別製品の情報収集以上に、製品開発体制を変えていくのに必要なマネジメントのツールであることを示す、興味深い例である。