デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2004.11.01ユーザビリティをプロジェクトの目的に組み込む

FlashやDreamweaverなどで知られるマクロメディア社は昨年、新しい製品シリーズMX2004のリリースにあわせて自社のサイトを大規模に作り変えた。Webパブリッシングの最前線にいる企業が自社サイトのデザインをどのように考えているのか、このプロジェクトを推進した同社エクゼクティブ・プロデューサーのトニー・ロペツ氏の目から見てみよう。

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ロペツ氏らはMX2004発売の数ヶ月前からこのプロジェクトをはじめた。再構築とはいえ、4万ページ以上あるサイトを限られた時間で作るには、明確な戦略が必要だ。彼らのとった戦略は4つに集約されるが、もっとも重要なのは最初のゴール設定に十分時間をかけることだった。ゴールが決まっていないとデザインの評価はどうしようもない ほど主観的になってしまう。 しかも多くの関係者がWebデザインのエキスパートだと思っている中では、その主観がプロジェクトをおかしな方向に向けてしまう危険も大きい。

何よりもまずゴールを明確にすることにより一定の方向で評価ができ、チーム全体の作業を結集できるのである。想定するユーザは?彼らは何を求めているのか?彼らに伝えたいメッセージは?のこの再構築に関しては、MX2004とこれまでの製品との違いを伝え、アップグレードしたいユーザに評価版をダウンロードしてもらうことが焦点だった。このようなビジネス上の目的を達成して、なおかつ使いやすいサイトにすることがプロジェクトのゴールとなった。

評価に関して興味深いのは第2の戦略で、彼らはフォレスター・リサーチ社のユーザビリティ評価で高いスコアを得ることを目標にした。フォレスターはWebのユーザビリティを分析した経験則(ヒューリスティック)を蓄積しており、開発者からも特定のユーザからも中立に評価ができる。しかもロペツ氏らは、開発が終わってから評価を受けるのでなく、最初からデザインプロセスの中に評価基準を取り込んだ。これによって時間的なプレッシャーの大きいプロジェクトでは後回しになりがちなユーザビリティを念頭に置くことができ、結果的にフォレスターがこれまでにWebサイトにつけた最高のスコアを得ることができた。

そして3つめの戦略は、個々の変更についてそれでどんな問題が改良されるのか、きちんと理由をつけていくことだった。マクロメディア社のサイトは開発者に技術情報を提供するという重要な役割も持っている。情報があるはずの場所がいつのまにか変更されたりすると効率が悪いため、ユーザは慣れたことを変えられるのを嫌がる。だから再構築に際しては、理由なく新しいものに入れ替えるのではなく、既存のものを進化させるという考え方を取っている。

そして最後の戦略は、技術を新しいという理由で取り入れるのでなく、本当に必要な手段かどうかを判断するということだった。彼らはFlashなどマクロメディアの自社技術についても、このプロジェクトのゴールにとって必要かどうかという観点で検討している。最近多くのサイトが取り入れているCSS(Cascading Style Sheets、表示スタイルを統一的に定義する方法)についても同様だ。結果的にCSSは再構築したサイトで積極的に利用し、そのおかげでプロジェクト完了直前にあった核心部分の変更もこなすことができたそうだ。

このように見てみると、技術的にはどのようにでも派手さを誇示できる同社のサイトが意外に文字が多くストイックな印象を受けるのも、何度か訪れるうちに必要な情報を効率よく提供するという意図が分かってくるのである。そしてその意図をストレートに実現できたのは、最初にユーザビリティをプロジェクトのゴールに組み込んであったためだといえる。Webサイトのデザインのようにプロジェクトが始まってから判断すべきことが多い場合ほど、最初から評価基準を明確にしておくことが重要だという実例である。