デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2005.03.15個人の視点で空間を案内する

景観や街並み、展示空間などを紹介する仮想ツアーを作りたいが、3次元モデルでは大がかりになってしまうので手軽に編集できる方法にしたい。今回はそのような目的のためのフォトウォーカー(PhotoWalker)というツールをご紹介したい。d_06_photowalker-screen

フォトウォーカーを使うには、まず空間内を歩きながらデジタル カメラで一連の写真を撮る。このとき写真と写真が一部重なるようにしておく。たとえば最初の写真にテーブルがあれば、次の撮影位置ではさきほどのテーブルを入れた新しいアングルで撮るという具合にする。編集のときに写真を選んだり経路を整理したりできるので、撮影の時に必ずしもすべての経路を計画しておく必要はない。

パソコンに入れた写真をフォトウォーカーで読み込むと、一連の写真が並んだ画面が出てくる。そのなかから2つの写真を選び、同じ対象が写っている領域の四隅にマークをつける。2つの写真にマークをつけると位置関係が決まるので、またその次の写真を選んで順々に位置関係をつけていく。ひとつの写真から複数の写真へつなげることもできるので、全体としては分岐やループを含んだ空間の案内経路ができる。

フォトウォーカーで編集したデータはShockwave形式で書き出してから、専用のブラウザで再生する。画面上ではひとつの写真に対して次の写真が、共通部分が一致するような配置でオーバーラップして表示される。写真をたどっていくときには、次の写真が変形しながら前の写真を置き換えるような移行のしかたをする。それによって、ちょうど空間を歩きながらシーンを見ていくような印象を与えている。

フォトウォーカーは東京大学生産技術研究所助手の田中浩也氏が、もともと多次元フォトコラージュとして開発していたものをベースに情報処理推進機構(IPA)の支援を得て公開したものである。田中氏は当初から、個人の視点で見たものを記録して他人にも同じ経験を目で見てもらえるような、デジタルカメラを使った地球の歩き方を作りたかったと言っている。ちょうどウェブログと同じように日々の生活の中でたまっていく素材を手軽に組み合わせて個人がコンテンツとして発信する機会がこれからどんどん増えていくだろう。フォトウォーカーはその方向を端的に示しているといえる。

やや広く言えば、コンテンツの編集を楽しむという考えが個人の方に広がってきているが、そのときにフォトウォーカーのような編集ツールは、だれが使ってもある程度見られるものができるという最小限の品質を保つフォーマットの役割をするだろう。アップルコンピュータのプレゼンテーションツールKeynoteなども、洗練されたレイアウトやトランジションが最初から組み込まれているという点で同じ方向を向いていると思う。

私が関係している用の美システム研究会が田中氏と共同で以前、東京都目黒区の日本民藝館の協力を得てワークショップを行った。公募で集まった参加者が日本民藝館の中を歩きながら写真を撮り、直後にフォトウォーカーで編集して仮想ツアーを作る。そしておたがいに編集した結果をプロジェクターで見せる。すると、こんな場所があったのか、こんな視点で展示物を見ていたんだ、というような発見があり、すでに知っている場所でも他人の視点で興味津々と見直せるという経験をした。

面白いことに、日本民藝館の学芸員が作られた仮想ツアーは、はじめての訪問者が作ったものとはかなり違いがあった。学芸員の視点では、部屋全体から一番重要な展示物に一気に進むというように、ダイナミックな視点移動をする。おそらく写真の撮り方や選び方は、その空間についてどれだけよく知っているかという知識を反映するのだと思われる。そのことから、ちょうどPowerPointのようなプレゼンテーションツールが話のストーリーを整理するのに役立つのと同じように、フォトウォーカーが空間の特徴を掴んで人に伝える視点を強化することに役立つと面白いと考えている。

フォトウォーカーのサイト→ http://www.photowalker.net/

用の美システム研究会:日本民藝館の仮想ツアー → http://www.beausys.org