デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2005.07.15演出のパッケージ化

ライブドアのニッポン放送買収劇では、改めて日本での放送と通信の融合がクローズアップされた。放送は電波という公共性の高いインフラを使っているため、ネットワークよりも個人への焦点を当てたビジネスへの進出が遅いという印象が強い。しかし放送業界では、新たな広告収入の道や著作権処理などビジネス上の課題こそあるが、技術的には通信ネットワークとの融合時代への準備が進んでいる。

その一つが、2007年頃に開始予定のテレビ番組のサーバー型放送だ。番組は提供者側のサーバーから利用者側のハードディスクにダウンロードされたり、受信機にストリーミングすることによって配布される。そして番組と同時に、番組の中身を検索できるようにメタデータも提供される。例えばサッカーの試合ならば、ある選手が得点する瞬間だけを選んで観ることができるわけだ。

スポーツなどではすでに実況中継とほぼ同時進行で、音声認識、選手の顔認識、位置追跡などの技術を組み合わせて、メタデータが半自動的に生成できるところまで来ている。歓声が上がった瞬間や選手をクローズアップしたタイミングをとらえてメタデータをつける箇所を抽出することも、おおよそ自動化できている。機械認識の精度が100%でないため、最終的には人間がメタデータを編集する必要があるが、その前処理までは自動化できている段階だ。

サーバー型放送は、知りたいこと、観たいものだけを選ぶようにメディアをコントロールすることに慣れた人たちを、テレビに連れ戻すことに役立つだろう。ただそのときにテレビ番組を他のコンテンツから差別化するためには、番組制作によって放送が培った演出である、人間のナレーションや動作に乗せてコンテンツを伝達する方法が大いに活用される必要がある。人間の声と表情で話しかけられる内容は集中しなくてもすんなり頭に入るので伝達効率がよいが、その点でどうしても文字が多いウェブは自然に頭に入っていく表現にはならないからだ。

この考え方を進めていくと、テレビ番組の演出という優れたインタフェース技法をパッケージ化して、台本の部分だけ入れ替えて次々と番組を作り出すことが考えられる。NHK放送技術研究所では、そのような番組制作の自動化のためにTV4U (TV for You)という研究が行われている。TV4Uでは、番組のコンテンツとなる台本のテキストと画像をMS Wordで編集する。それをTV4Uの生成プログラムに入れると、プログラム化された演出のルールに従って、スタジオセットやキャストの動作が自動的に決定される。このとき、あらかじめプロが設定した演出方法がパッケージ化されていて、そのパッケージを選ぶことによりニュース番組風や子供番組風の演出にすることができるのがポイントだ。そしてTV4Uが生成した番組をダウンロードして専用のブラウザで再生すると、視聴者側では見慣れたスタイルで演出された番組を観ることができるのである。

またTV4Uにはもう一つ、観ている人が質問を入れられるという大事な機能がある。すると番組の中にいるキャストが「何か御用でしょうか?」とこちらを向いて、質問に合うような他の番組を探してくれる。番組のキャストが質問に答えてくれることで、視聴と検索とをシームレスにつなぐことができるのである。

TV4Uの基礎には、すでに10年ほど前から開発が続いているTVML(www.nhk.or.jp/strl/tvml)という番組記述用言語がある。TVMLにはキャストの動作、表情、発話などを指示するコマンドがあり、カメラや小道具などスタジオセットの設定もできる。TVMLの言語仕様もプレーヤーも公開されており、プレーヤーには音声合成のコンポーネントも含まれているので、コマンドを覚えればだれでも簡単な番組を作って再生することが出来る。また質問を受ける機能はないが、TV4Uのように台本のテキストから手軽に番組が作れるTVML Player miniもダウンロードすることができる。

TVML時代から開発にあたってきたNHK放送技術研究所・知能情報処理グループの道家守氏は、TV4Uのこれからの課題について「番組の中身を理解して質問に答えられるようにすること」だという。たとえば料理番組を観ていた視聴者が、これと同じような材料を使った他の料理番組も検索したいとしよう。しかし台本に出てくる素材名で検索しただけでは、それが料理番組の文脈で出てくるのか、自然探検の文脈で出てくるのかを確実な方法で判定できない。コンテンツを正しい文脈で検索することはウェブでも行き当たっている問題であるが、テレビの場合はより広い年齢層が対象になるため、この問題が一層明確に出てくるだろう。

演出をパッケージ化するTV4Uは、視聴者の幅広い興味や地域などに特化した話題を低コストで番組化できる有望な技術である。その活用のためにも、番組を言葉で検索するためのインタフェース技術は今後の革新が期待されるのである。
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