デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2005.08.15コミュニケーション・ゲーム

「汝は人狼(じんろう)なりや?」というゲームをお聞きになったことがあるだろうか?もともとカードゲームだったものがオンラインになり、現在Web上にいくつもサーバが動いている。簡単なルールを読んで過去の対戦記録で雰囲気をつかんでおけば、だれでも無料で参加できる。


ゲームの進行はおおよそ次のようだ。まず参加希望者がこれからスタートする村を見つけてログインする。適当な人数が集まったところでゲームが始まると、参加者はランダムに村人チームか人狼チームに割り振られる。ゲームの中では1日10分ほどの間隔で昼と夜になり、村人は昼の間、誰が人狼かを推理する。昼間は人狼も村人になりすまして会話に加わる。夕方になると全員の投票があり、もっとも多数に人狼だと疑われた一人が死んでしまう。夜になると人狼だけが会話できるようになり、夜明けに村人一人を咬み殺す。人狼を見つけ出して絶滅できれば村人チームの勝利、村人を人狼と同数まで減らせることができれば人狼チームの勝利である。

d_11_screen オンラインゲームといえば、CGで描かれる世界にキャラクターの姿で入っていくものが思い浮かぶ。しかし人狼ゲームはほとんどボランティアの個人サーバで運営されていて、画面も文字中心の地味なインタフェースである。ゲーム進行の機能がついた掲示板といえば大体わかってもらえるだろう。進行のテンポもアクション系ゲームに比べればずっと緩やかであり、参加者間の短い発言が織りなされて進んでいく。人狼ゲームはこのように地味なのだが、意外にもゲームをやり慣れた人たちが面白がってはまっている。

村人チームには占い師、霊能者など特別な能力を備えた人が一定数いて、人狼を割り出すのに活躍する。ただし能力者であることを公表すると夜の間に人狼に狙われるため、ある時点まで隠す必要もある。一方で黙っていると人狼は能力者をかたって村人を混乱させようとするので、偽者と疑われて投票で殺されないよう、村人は人狼の発言の矛盾を突きながら自分の情報の正しさを説得することも必要になる。このように人狼ゲームは、本当のことを言っている場合でも、嘘をついている場合でも、とにかく参加者が互いに自分の発言を論理的に人に信じさせようとするコミュニケーションのゲームである。

人狼の人気の理由は、ルールがよく出来ていることのほかに、コミュニティーのほどよい設定にもあるだろう。ゲーム参加者の10人?20人ほどのコミュニティーは、1?2時間の会話の間だけオンライン上にできる。村の名前も自分のニックネームも適当で、メールのようにアドレスやヘッダから個人の属性がわかることもない。村にログインしてゲームが始まるのを待つ間は「こんばんは」などと挨拶して、終わればまた「お疲れさま」といって別れる。ゲームの設定上疑心暗鬼の態度に陥いらざるを得ないのも確かだが、終わってから発言の理由を種明かしされるとなるほどそうだったのかとすっきりする効果もある。マナーの面でも、ゲーム中に理由なく人の発言を疑ったりすると自分が怪しまれて殺されてしまうので、よく考えて論理的に納得してもらえる発言をするのが普通である。

人狼ゲームをコミュニティー成立のしかけと考えると、そのデザインについて2つの特徴に気づく。一つは自明なことだが、文字を通しての会話が機能している点である。ほとんどの人狼サーバでは、インタフェースは色の使い分けなど多少の見やすさの工夫はあるが、基本的には参加者からの発言を文字で表示するだけだ。しかしそのシンプルさのために発言の内容がクローズアップされ、会話に集中できる。掲示板で会話することに慣れた人たちにとって、キーボード経由でのコミュニケーションに特に負担はない。むしろ短い言葉のやり取りには小気味よいリズムを感じる。発言のポイントや投票の結果も画面の文字をコピーすればすぐに自分用のメモにできるので、文字ベースの方が以前の情報を参照しながら密度の高い会話がしやすいといえる。

もう一つは、会話という無駄が参加者を引き付けていることだ。ゲーム進行のメカニズムから見れば、投票で誰が殺されるか、人狼が誰を咬むかという状態遷移だけが決まればよいので、その途中の会話はゲームの副産物ほどの意味しかない。しかしもちろん参加者にとっては会話が主であり、自分の発言がコミュニティー全員から注目されているという心地よい緊張感が作り出されている。たとえゲームの途中で死んでも、ゲームの進行を眺めながら霊話という別チャンネルで死んだ人だけの会話ができる。霊話もゲームの進行には全く役に立たない無駄な会話だが、ゲームが終わってからログを見ると「なんでここに気づかないんだ」というような外野の声が見えて結構笑えるのである。

文字ベースでしかも一見無駄な会話をサポートするという人狼ゲームには、実はインタフェースデザインのヒントがあるように思う。例えばWebサイトの中でアンケートに答えてもらうページでは、入力用のフォームだけを機械的に用意するのでなく、年齢や性別などいくつかプロフィールを聞いた後に「30代の女性の方から以前このようなメッセージをいただきましたが、同様にお考えでしょうか?」などと短い問いを出すのである。メッセージが過去の入力に基づいている必要は必ずしもなく、 あらかじめ聞き出したい結論にあわせてプロファイル別に数パタン用意しておけばよい。肝心なのは入力に対してリアルタイムに反応して、言葉に対して言葉を返すという人間の自然な発言動作のきっかけをつくることだ。今後音声認識などが実用的になるにつれてより対話的なインタフェースが目立つようになるだろうけれども、考えた上で反応するという場面ではおそらくいつまでも文字はインタフェースの中心であり続けるだろう。