デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2005.09.15ポッドキャスティング:モバイルと共有からの展開

日本でオープンしたアップルのiTunesミュージック・ストアが最初の4日間で100万曲を販売したことは、経済紙などでも大きなニュースになった。これまでアメリカのクレジットカードでも持っていない限りストアに登録できず、悔しい思いをしていた日本のiTunesユーザが一挙に押し寄せた格好だ。この売れ行きは2003年にアメリカでミュージック・ストアがオープンした時を上回っており、日本でも音楽のオンライン市場のニーズが十分高いことを示している。


その背景には、すでにアップルがiTunesによって音楽にかかわる新しいスタイルを広げてきたことがある。その一つの方向はiPodとの連携によるモバイル性だ。iPodをコンピュータにつなぐだけで、キーボードにもマウスにも触らずにiTunesで作った音楽ライブラリをシンクロナイズできる。ホイール一つだけという単純明快なユーザインタフェースも含めて、iPodに音楽を詰め込んで持ち歩くことに心地よさを感じている人は多いだろう。

そしてもう一つの方向は音楽の共有だ。オフィスなどでiTunesの共有をオンにしておくと、同じサブネット上の他のコンピュータで曲が再生できる。もとのコンピュータからはストリーミングで送り出されるだけなので、音楽ファイルが勝手にコピーされる問題がないことがポイントだ。そして自分が持っていない曲をためしに聴かせてもらったりできるのは、ちょっとうれしい。

もっともパロアルト研究所(PARC)の中でiTunesの使われ方を観察したAmy Voidaによると「マネジャーが音楽共有を見るようになってからは、プレイリストの名前を変えて自分のものだとわからないようにした」という場合もあったそうだ。趣味に関するものを共有するときのデザイン上の配慮として、自分の見せ方を選択できるようにしておくことも必要なのであろう。

音楽のモバイル性と共有を展開するために、アップルにとっては不正コピーの防止が必須条件だった。iTunesミュージック・ストアからダウンロードしたファイルはFairPlayという権利管理の枠組みの中で暗号化されている。暗号解除を始めるための鍵は、曲の購入とともにアップルのサーバからユーザのコンピュータに送られる。ダウンロードした音楽を家庭内や会社などの別のコンピュータで再生するには、そのコンピュータをミュージックストアが認証して新たに暗号解除の鍵を送る。このようにアップル側が暗号鍵を管理することによって、購入した曲は最大5台までのパソコンで再生可能という制限を実現しているのである。ただFairPlayの暗号化を迂回するツールを開発するハッカーとアップルの攻防は続いており、音楽業界の心配はまだ絶えない。それでもこれだけ音楽の聴き方が変化した以上、それに逆行するような新たな制約や課金をすることはできないだろう。

iTunesが広めたモバイル性と共有の次に面白くなりそうなのは、第3の方向であるポッドキャスティングである。ポッドキャスティングとはオーディオファイルで配信するブログのようなもので、ブログと同じように発信者がコンテンツを追加すると、購読しているユーザのiTunesが見つけて自動的にダウンロードする。更新チェックにはブログと同じくRSSというXML形式のメタデータが使われており、iTunesにRSSタグをドラッグして入れるだけでポッドキャスティングが簡単に購読できる。

インターネットでストリーミングされるラジオ局に比べてポッドキャスティングが優れているのは、iPodに入れておいて電車の中など外出先で暇なときに聞くことができることである。テレビ放送のタイムシフト視聴がハードディスクレコーダーの普及とともに広がったように、iTunes/iPodや同様の製品にはラジオをリアルタイムで聴く習慣のなかった人に番組を届けられる可能性がある。また発信の容易さという点では、特定の地域やグループに向けた話題をタイムリーに届けるという従来のローカルFM局が目指していたことがよりしやすくなったといえる。たとえば横浜のポートサイド・ステーションは地域のNPOと連携して、街の話題のポッドキャスティングを実験している。ポッドキャスティングはブログと同様に購読者からの関心という緩いつながり方だが、人の声での語りやBGMでの雰囲気づくりなど放送番組が持つ良さもあり、ブログ以上に発信者と購読者を強く結びつけるチャンネルになる可能性がある。どんどん増えつつあるポッドキャスティングにどのようなものが出てくるか、大いに楽しみで ある。d_12_podcasting