デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2005.12.15チキン・リトルに思うストーリーづくり

チキン・リトル(Chicken Little)はウォルト・ディズニー・ピクチャーズ社が初めて単独で製作したCGアニメーション映画である。11月上旬に劇場公開された週にフロリダのディズニーワールド周辺にいたので、ちょうど良いタイミングでディズニー内の劇場で鑑賞することができた。この映画は普通の2Dバージョンでの上演の他に、映画館によっては偏光メガネで立体視する3Dバージョンでの上演もある。私が観た3Dバージョンでは、主人公が街の中を走り回ったり体育館でたくさんのボールが飛び回ったりするシーンが効果的に表現されていて、娯楽というのにふさわしい技術的にこなれた出来だった。一方、チキン・リトルが心に残る映画かと言えば、何か物足りない印象が残ったのも事実だった。


ディズニーは1997年にピクサー・アニメーション・スタジオと5つのCGアニメーション映画を共同製作する契約をした。以降ピクサーはディズニーのために「バグズ・ライフ」「モンスターズ・インク」「ファインディング・ニモ」「ミスター・インクレディブル」を製作している(「トイ・ストーリー2」もディズニーとの共同制作だが、第1作からの継続のため5つの中には入っていない)。2006年公開の「カーズ」でこの契約が終わるため、ディズニーは自社スタジオでCGアニメーションを作る方針に変えた。その第1作目がチキン・リトルである。

ピクサーの映画はどれも人を話に引き込んでいく魅力を持っている。もともと土台になっているストーリーは単純で、バグズ・ライフなどは「助けても何の得にもならない農民のために力を合わせる七人の侍」と同じ筋の昆虫版とも言われている。しかしストーリーの細部に至るまで緻密に作りこんでいるため、その世界が実際にあるかのように活き活きとみえる。その秘密がピクサーのストーリー作りにかける膨大なエネルギーにあることは以前にも書いた通りで(ニューズレター2004年12月号参照)、典型的な製作年数4年の中で最初の2年はストーリーと演出の作り込みに費やしているほどである。

一方ディズニーのチキン・リトルは、ピクサーの映画とは非常に違っていた。基本的には同じ3Dアニメーションの技術を使い、声の出演も実力派俳優をそろえている。音楽もクィーンやスパイスガールズのヒット曲ではあるがオリジナルのアレンジをしている。効果音にも凝っている。つまり製作技術やキャスティングのレベルは同じなのだけれども、出来た映画が全く違う。その違いは質的なものだが、最終的には時間が経ってもまた繰り返してみたいかどうかに現れると思う。

チキン・リトルを分析すると、多方面にアピールしようとする八方美人的な要素が強い。親に向けては、父親が我が子を理解していくドラマ仕立てだ。しかしclosure(和解)という言葉を何度も出して説明するため、子供には小難しく感じてしまうだろう。ファインディング・ニモでもshort-term memory loss (短期記憶障害)という難しい言葉を何度も使っているが、それがジョークとして出てくるため流行語にまでなった。しかしclosureにはそのような愛嬌がない。またキング・コングやインディ・ジョーンズを引用しているが、それが引用だとわかるのもかなり年上の子供だけだろう。引用といえばタランティーノのキル・ビルのように凝ったものもあるが、作りたいものを作ったと言う映画オタクの監督に文句を言う筋合いはなく、一般人にも訳が分からないなりに爽快感がある。けれどもチキン・リトルにはただ媚びた印象だけが残ってしまう。

しかしおそらく一番の問題は、親子が分かり合うストーリーと、UFOが空が落ちてきて地球を攻めるという別のストーリーがくっつけてあることだろう。子供向けの1時間21分の上演時間の中で、もともと別の2つの話を貼り合わせることは難しい。これも結局、大人向けと子供向けという2つのニーズを両立させる妥協の産物なのではないかと、いらない疑いまで持ってしまう。

ウォルト・ディズニー社が娯楽産業の巨人であることは間違いない。Amusement Businessの推計によれば(*1)、世界のテーマパークで2004年の入場者数が1千万人を超えるのはディズニーワールド(フロリダ)、ディズニーランド(東京)、ディズニーランド(カリフォルニア)、ディズニーランド(パリ)の4つだけで、いずれもディズニーの傘下である(大阪のユニバーサルスタジオは第5位で1千万人を若干下回る)。もともとアニメーションという無形のものを媒介にして、これだけの人数を物理的にテーマパークへと動かしているというのは、恐るべきマーケティングの力である。

しかしチキン・リトルを観てから考えると、先端の3D技術とマーケティングの要素を組み合わせるだけでは、心を動かすストーリーはできないのも確かなようだ。おそらく映画の最もクリエイティブな部分は、製作にかかわっている人々が内部から質を高めていこうとするモノづくりに似ているのだと思う。ピクサーが時間をかけて地道にストーリーを成長させていくように、マーケティングの中でもストーリーを持って顧客に話しかける核心部分では、試行錯誤的なやり方を許す環境づくりが必要なのだと思う。ディズニーは本来の平面アニメーションで培った力を発揮してこれからCGでも良い作品を作っていくこととと思うが、チキン・リトルに関してはストーリーづくりの大事さを確認する材料を与えてくれたようである。

(*1) Amusement Business 2004 Top 50 Amusement/Theme Parks Worldwide。ディズニーワールド(フロリダ)はMagic Kingdom, Epcot, MGM Studios, Animal Kingdomの合計、ディズニーランド(東京)はディズニーランド, ディズニーシーの合計、ディズニーランド(カリフォルニア)はDisneyland, California Adventureの合計。


 図:チキン・リトル(12月23日より日本で公開)d_15_chicken_little