デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2006.04.153Dモデルを文書に組み込む

最近Adobe Readerをバージョンアップされた方は、3次元の表示機能が追加されているのに気づかれたと思う。3Dモデルが埋め込まれている箇所には、移動や回転など3D用のメニューが表示される。機械の部品の動きなどモデルに動作が設定されていると、アニメーションがAdobe Reader内で表示される。


アドビ社は今年に入ってからAcrobat 3Dもリリースした。これを使うと、CADシステムや3Dモデラで作った様々なデータを組み込んだPDF文書を作ることができる。すでに普及しているPDFにこのような編集環境が整ったことで、3Dモデルを文書に組み込んで配布することが2Dグラフィックスと変わらないほど容易になってきた。今後、3D表示を利用したPDF文書を目にする機会も増えて来るだろう。

Acrobat 3Dには3D Toolkitという独立したアプリケーションも同梱されており、CADのモデルを加工したりアニメーションをつけたりすることもできる。例えばダウンロード可能なカタログを作るときに、製品を3Dでいろいろな角度から見せられると都合がよい。従来はカタログ用のモデルをCADとは別に作るなどしていたが、3次元CADからカタログへの再利用の流れができれば大きな効率化となる。

Acrobat 3Dの背後にはRight Hemisphere社があって、さまざまなCADデータを変換する技術をアドビ社に提供している。同社はCADデータを再利用して目的に応じたグラフィックスを生成することを、製品グラフィクス管理(PGM: Product Graphics Management)と呼んでいる。この領域はまだ定義もあいまいであるが、広告、メンテナンス、トレーニングなどにおけるモデルの再利用のニーズは高く、今後拡大していくと思われる。

Adobe ReaderやAcrobat 3Dが採用しているのは、U3(Universal 3D)というデータフォーマットである。現在多くの工業製品が3次元CADで設計されているにもかかわらず、CADデータ間に互換性がなかったり適切なフォーマットに変換できなかったりして、データの再利用には問題があった。そこで既存のCADデータのフォーマットを尊重しつつ、再利用のための統一的なフォーマットを作ろうというのがU3Dの目的である。U3Dはアドビ社、インテル社、Right Hemisphere社らを含む業界団体3DIF (3D Industry Forum)が推進しており、2005年に規格制定団体であるECMAによってバージョン1が承認され、現在は拡張性の定義を加えたバージョン2を審査中である。

実はアドビ社には以前Atmosphereという製品があった。Atmosphereは一種のコミュニティーサイト構築ツールで、管理者が3D世界を作って公開すると、その中にユーザがアバターとして参加して会話できるというものであった。Atmosphereはβ版の時期が長く続いて、結局正式なリリースに至らなかったのだが、3D世界の構築をPhotoshopと同じような手軽さにした斬新なツールであった。Atmosphereの開発は、もともとPhotoshopを担当していたMichael Kaplanという、アドビ社内でも尊敬されている技術者がリードしていた。彼は現在、Acrobatの技術ディレクターとなっており、Acrobat 3Dの方向性にも影響を与えているようである。

これまで3Dの有用性は説かれながらもなかなかネット上での利用が進まなかった現実があるが、U3DによってPDFという文書流通基盤の上に、2D/3Dの区別なくグラフィクスを利用できる状況が現実になりつつある。今後、広告をはじめとしてメンテナンス、トレーニングなど製品情報を必要とする分野へのインパクトに注目しておきたい技術である。


(図注)Acrobat 3Dでのモデルの表示

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http://www.adobe.co.jp/products/acrobat/pdfs/3d_pdf_demo.pdf