デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2006.07.15GPSによる軌跡の記録

GPS(Global Positioning System)を使って自分の記録をつけることを楽しむ人が増えている。例えばハイキングのときに歩いた道をGPS端末で記録しておいて、後から地図上で表示するような使い方だ。この方面で有名なフリーソフトのカシミール3Dでは、等高線地図を使って山の地形を立体的に描き、その中にGPSからダウンロードした軌跡を表示してくれる。


またGPS端末をジョギングやサイクリングに持って行って、トレーニングの経路を記録する使い方もある。ジョギング用にデザインされた腕時計型GPS端末などは、もはや計測機器というよりもスポーツギアの域に入っている。また胸につけた心拍計のデータを位置とともに記録する端末もあり、PCにデータをダウンロードすると、走った経路や時間とともにどれだけ心拍数が変化したかもグラフ表示される。それを見てみると、サイクリングなどは上り坂ではっきりと心拍数が上がっているのがわかる。

さらにGPSを使って地上に絵を描いている人もいる。あらかじめ地図を見て経路の見当をつけておいてからGPSを持って歩き、実際に記録した経路データを地図にかさねて表示する。地図を見ているときにイメージした絵も、実際に歩くと道路工事中など現地の都合で予定通りには描かれない。GPSドローイングをしている人にはその辺りの地図と現実のギャップが面白いようだ。

ただ、他人が作ったGPSの軌跡を見るだけでは、こんなことができるという驚きも最初こそあるが、そのうちすぐに毎回同じように見えてしまう。もともと使っている技術が同じなので、どれも同じような結果に見えるのも当然である。しかしGPS愛好家たちの愛着はGPS技術自体に向かっているのではなく、GPS端末を持って山歩きをしたりトレーニングをしたときの状況に向いているのである。事実、GPSで取った軌跡を見ながら話を聞くと「ここで会話に夢中になって道を行き過ぎてしまった」とか「この時に急に心拍数が上がったのは、多分あそこで呼び止められたからだと思う」など現実の経験が思い出されて、途端に生き生きとした面白い話が湧き上がってくる。

そう考えるとおそらく、GPSのログというのは途中の出来事を思い出すためのきっかけという程度のものであろう。そしてGPSでログを取ることはウェブログに日々の記録を書くことにも似ているが、ブログほど不特定多数に見せる公開性はなく、従ってよそ行きの言葉づかいや型通りの結論もない。GPSで記録をとどめておく作業は、多分ブログ以前の日記が持っていたような非常にパーソナルな行為に近いと思う。

最近ではGPSモジュールを組み込んだ携帯電話も増えて、市街地でのナビゲーションなどに利用されている。またデジタル写真の属性情報(メタデータ)にも緯度と経度の項目が確保されているので、GPS付き携帯電話で撮影した写真に位置データを埋め込んで送信することもできる。これは携帯の情報発信の機能を増やして、特定の場所と文脈にまつわるコミュニケーションを増やすことにつながる。

GPSはこれまでは位置の特定や経路の記録をするためのツールであったが、携帯電話と結びつくことによって個人的な体験やストーリーを特定するためのツールに変化していくといえる。IPアドレスのようにグローバルに場所を特定できるしくみによって、その対極に位置する個人のコミュニケーションがより盛んになるのは面白い現象である。コミュニケーションがさらに個人へと向かうトレンドの上でGPSは鍵となるものであり、今後も注目していきたい技術である。

図:カシミール3Dを使った経 路

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