デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2007.01.15近代化現象としてのWeb2.0

TIME誌が2006年末に選んだパーソン・オブ・ザ・イヤーは「You(あなた)」だった。この号の表紙のYouTube風の画面は鏡になっていて、手に取ると自分が映っているという趣向も面白い。だがもちろんもっと大事なのは、今年の人がYouになった理由がWeb2.0にあるという点だ。

TIME誌の記事に出てくるWeb2.0の例はウィキペディア、ユーチューブ、マイスペースなどであり、いずれも個人が自分の興味で参加したり表現したりすることの集積がコンテンツになっている。記事中に指摘されているように、種々雑多な個人活動の集積がそのまま社会にとって良いものになると考えるのは楽観すぎるが、少なくともインターネットで個人活動を結びつける世界規模の実験が世の中を面白くしているのは間違いないだろう。

TIME誌で注目されるほどのWeb2.0だが、冷静に見てその技術はどう位置づけられるだろうか。Web2.0を特徴づける技術は、ひとつにはAjaxという言葉の通り、サーバとクライアントが非同期(asynchronous)でスクリプト言語(JavaScript)を介して構造化されたデータ(XML)をやり取りするしくみだ。これによって、クライアントで表示をしたり入力をチェックしたりしている間にサーバ側は検索を実行するというような非同期動作ができる。Ajaxにより、入力を確認するたびに新しいページがリロードされるという以前の方法に比べて、確かに快適なインタラクションが可能になった。

しかしWeb2.0の根本的な変化は、コンテンツとしてのテキストや写真や映像と、表示手段としてのブラウザやその上でのレイアウトが分離されたことにあると考えられる。ブログのMovable Type、ポータルサイト構築のXoops、ウェブフレームワークのRuby on RailなどWeb2.0の動きとともに普及したツールは、いづれも内部でプログラムから独立したデータベースを利用している。すでに十分鍛えられているデータベースを利用することで、データ管理を安心してデータベースに任せて、プログラムはユーザ側へのサービスに専念できるわけだ。

実際、上記のようなツールを使ったサーバでは、データベースにはコンテンツとなるデータだけがあり、アクセスがあるたびにページ全体がリアルタイムでレイアウトされ、HTMLの形になって送り出されている。例えばブログの画面でユーザがカレンダーをクリックすると、サーバはデータベースからその日の記事データを取り出し、適切なレイアウトを作ってフォントや色などの表示指定とともにブラウザに送り返しているわけだ。

このループを一般化すると、表示すべきコンテンツの必要部分を切り出したモデル(model)と、モデルに適切なルールを与えて画面上で提示するビュー(view)、そしてクリックなどユーザの入力に反応してビューの表示を更新するコントローラ(controller)の3つが組み合わされて動いている。モデル、ビュー、コントローラの組み合わせは通常、頭文字をとってMVCと呼ばれている。実はMVCは、デスクトップ環境ではウェブよりずっと以前から、ユーザインタフェース重視のアプリケーションを構築するための基本形であった。MVCの枠組みでアプリケーションを構成できるようになったことで、Web2.0はようやくデスクトップ・アプリケーションと同レベルのプログラミング環境に到達したといえる。Web2.0は最先端というよりも、これまでプリミティブな技術でやりくりしていたウェブの世界で始まったプログラミングの近代化現象と言ってよいだろう。

このウェブの近代化現象の中で、インタラクションデザインやサービス提供を計画するデザイナーもまた進化すべき時期に来ている。従来はMVCのような枠組はプログラマーが理解していれば十分だったが、Web2.0らしいサービスを計画するならば、データの流れもMVCに沿って理解できていた方が見通しがよい。例えば地理情報を提供するサイトならば、全情報を持つデータベースから店舗の情報やイベント情報など、どのような情報を持つモデルを取り出せばよいか、そのモデルをユーザ側でいろいろ動かせるようにするにはビューにどのような機能が必要か、また問い合わせをしやすくするためにユーザ側での入力チェックなどのコントロールをどれだけ施せばよいか、などの決定がすべてデザインの領域に関わってくる。これらの諸要素をプログラマーと話し合う上で、MVCの枠組みを理解していることは大変有用である。

ウェブの近代化はデザイナーが関わるべき仕事を広げて権限を高めると同時に、見通しよいデータの取り扱いを計画することへの新たな要求でもある。今後、インタラクション自体の斬新さや面白さとともに、合理的思考でデータの流れを計画できるデザイナーが活躍していくことで、Web2.0的なデータ駆動型のサービスが本格的に普及していくであろう。

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図:Time誌のPerson of the Year 2006は「You」