デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2007.02.15ペルソナデザインに物語論は役に立つか

ユーザリサーチに基づいて組み立てられた仮想的なペルソナの行動シナリオは、一種の物語である。このシナリオは実際の調査データに基づいているので、自在な想像力で展開するフィクション小説とは違う。しかし実際の調査データはさまざまな文脈での経験談(エピソード)が集められたものである。調査データに基づくエピソードには説得力があるが、そのエピソードをつないで一貫性のあるシナリオを作るには、創造的な分析ともいうべき作業が必要である。図で創造的な分析部分とあるところは、調査データからの引用をつないで一貫性のある物語とするために分析者が作り出している箇所である。

図:エピソードの間を創造的に結ぶペルソナ記述

 scenario

ペルソナの 行動シナリオは一種の物語であるとしたが、それを作る作業において物語論は役に立つだろうか。物語論とは人間が語りついできた物語がどのような構造を持っているかを分析する分野であり、古くはウラジーミル・プロップがロシアの民話を分析した研究が有名である。プロップはロシア民話の分析から、登場人物は話ごとに違っても果たす役割には共通性があり、全部で31のパタンに分類できるとした。例えば「王にむりやり連れて行かれた白い馬は、隙をみて逃げ出し、追っ手の矢で瀕死の傷を負いながらも帰ってきた。」という話は、加害→欠如→闘争→帰還という役割の連鎖を当てはめることができる。ただプロップが分類した31の機能は魔法などのファンタジーを多分に含む民話から来ている点で偏りがあり、そのままペルソナのストーリーに応用することは難しい。

登場人物の機能という視点は残しながら、現代のストーリー作りに使える物語論はあるだろうか。それに関して、大塚英志氏の説く「キャラクター小説の作り方」(角川文庫)は大変興味深い。大塚氏は自分という視点で書く写実重視の文学に対するものとして、仮想のキャラクターを立ててその視点で書くキャラクター小説に焦点を当てている。キャラクター小説はもともと存在しないキャラクターが行動することからマンガやアニメと同分野であり、キャラクター小説の代表であるスニーカー文庫などの表紙が大抵アニメの絵になっていることも偶然ではないという。またキャラクター小説とSF映画も仮想の世界を描く点では同じ種類の創作である。例えばジョージ・ルーカスのスター・ウォーズでも、アーサー王伝説というこれまで幾度となく形を変えて語られてきたストーリーが下敷きになっていることが指摘されている。そのような物語に則ることによって仮想の世界が現実味を帯びて動き出し、人を引き込むことができるのである。大塚氏はキャラクター小説を作るためにはオリジナリティーの呪縛などにとらわれずに、どんどん盗作すべきだと言っている。

大塚英志「キャラクター小説の作り方」角川書店 (2006)
ISBN: 978-4044191221

character_novel

ペルソナの行動シナリオは、データに基づいた事実が含まれているという点では写実小説の要素もあるが、仮想のキャラクターを置いてその行動を描くことから基本的にはキャラクター小説と同じである。従って調査データを引用するのはもちろん必須だが、データに基づく事実の間をつなぎ、全体としてなじみ深い展開で人の記憶に残るストーリーを作るためには、キャラクター小説の場合のように、ある役割をする登場人物を加えることが有効である。

例えば、あるフィットネスに通うペルソナの「最初のうちはダイエットを目標に張り切っていましたが、だんだんとおっくうになっていきました。」というエピソードを考えてみる。これだけだとフィットネスに通う人からの調査データにそういう事実があったということしか示されていない。しかしこのエピソードを次のようにストーリーに組み込むと現実味が増してくる。「やはりダイエットが目的でフィットネスに入会することにしました。最初はやるぞという気持ちで続けていたのですが、減量の成果がちょっと上がっただけで気が緩んでしまいました。フィットネスのプログラムも楽な種類だけになりがちで、がんばった自分にご褒美をという気持で終わった後のおやつまでが決まったパタンになってしまいました。そのせいか、半年後にはなんと始めたときより体重が増えてしまっていたのです。効果がないからやめようかと自分のことを棚にあげて思ったのですが、あるときに常々かっこいいと尊敬していた人が同じフィットネスのメンバーだと知って、急にまた自分も続けたいと思い直しました。継続的に行き始めるとトレーナーとも仲良くなり、いつも帰りに運動データのチェックをしてくれるので、自然とダイエットの目標を維持できるようになりました。」

ここではかっこいいと尊敬する人の影響が目的を確認させる役割を、トレーナーが目標へと安定して到達するための役割を果たす。このシナリオでは、主役のペルソナがこの2人の脇役に支えられて、失いかけた目的を取り戻すという望ましい変化をする可能性が示されている。これはごく小さい例であるが、複数の登場人物が変化していくシナリオであれば、より普通の物語に近くなるだろう。そして馴染み深い物語であれば、記憶に残りやすく感情移入もしやすいというメリットが出てくる。利用しやすいペルソナを作る上で物語の力は非常に重要であり、そのような現代的なニーズに合った物語論がこれから発展していくだろうと思われるのである。