デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2007.04.10ペルソナ・デザインをリードする人材の必要性

「ペルソナ戦略」(ダイヤモンド社)が2007年3月に出版された。原書のThe Persona Lifecycle (Morgan Kaufmann)は700ページを超える上に全ページカラーでデザイン関係の書棚に収まりそうな体裁だが、 邦訳は電車の中でも読めるようなビジネス書になっている。翻訳されたのは全体の半分ほどだが、 ペルソナの作り方の主要部分がカバーされていて、これだけで十分活用できるようにまとまっている。この邦訳がきっかけになり、 日本でもさらにペルソナが認知されていくだろう。

ペルソナの認知が進んだ上で、さらにどうすれば自分のプロジェクトでもペルソナを試みるという段階になるだろうか。 特に日本の事情ということでは、従来からある顧客主義を否定することなく、ペルソナが受け入れられる必要がある。ペルソナが、 これまで培ってきたものや他の手法と対立せず、新たなニーズを明示化するツールとして役立つという理解のされ方が必要だ。

そして何よりも、ペルソナを継続的に使っていこうとする推進者がいることは、 まわりの人を巻き込んでこのツールを普及させる上で大きい駆動力になる。原書の著者John Pruittは、マイクロソフト社タブレット& モバイルPC部門のユーザ・リサーチ・マネジャーである。同社にはユーザリサーチのチームがあり、 彼を含めて複数の専門家がサーバー製品や家庭向けサービスなどの開発にペルソナを利用している。

もともとWindowsはMac OSに比べてインタフェースデザインに力を入れているとは言えなかった。しかしここ数年、 マイクロソフト社のユーザ中心デザインは確実に進んでいる。しばらく前の話になってしまうが、2001年にACM SIGCHIのカンファレンスがマイクロソフトの本拠地シアトルで開かれた。カンファレンスではビル・ ゲイツ会長が3000人ほどの聴衆を前にキーノートスピーチを行った。

ゲイツ氏は冒頭で「これは最近私が出くわしたメッセージです」といって、Windowsが出す非人間的なエラー・メッセージを見せた。 そして意外にも「これまでマイクロソフトはインタフェースの世界で良いこともしたが、良くないこともした。」という謙虚な発言をした。 そして「これからどのように新しいことをしていけばよいか一緒に考えたい。」として、マイクロソフト社が開発していたインタフェース・ プロジェクトやタブレットPCなどを紹介していった。また一日に何千通も来るスパム・ メールを自動的に整理してくれるインタフェースが必要だと、自分にも関係する切実なニーズにも触れていた。 この頃からゲイツ会長はインタフェースデザインの重要さを強調するようになったように思う。

このACM SIGCHIカンファレンスがあった2001年はWindows XPが発売された年である。そしてWindows Vistaが2006年末に発表されるまで、セキュリティ対策などWindows XPの改良の長い道のりが始まった年であった。 その長い期間、マイクロソフト社には着実にHCIの専門家が増えて、ユーザ中心デザインの動きが進んでいた。 Vistaは従来のXPとそれほど変わらないように見えるが、リリースまでの間、随所でユーザビリティに基づく改良を重ねているのである。 実はマイクロソフト社のソフトウエアのように汎用性が高いと、 特定のユーザにターゲットを絞り込むペルソナの手法はあまり簡単ではなくなってくる。その点、 ユーザの要望に合わせて個別にデザインするようなものに対してペルソナを利用すると、より顕著に効果を示すことができるだろう。

ペルソナ・デザインをリードできる人材の必要性に関して、SIGCHIのサンフランシスコ・ ベイエリア分科会であるBayCHIを見てみよう。BayCHIはデザイン関係の求人リストを定期的にメールで送っている。 そこには多数の企業が名を連ねているが、例えばPayPalは「個人データ、技術データ、利用事例などを組み合わせて、 事実と調査に基づいた詳細なユーザ・ペルソナを作るのに貢献できる」ユーザビリティ担当者を求めている。グーグルも同様で「現場調査、 ペーパー・プロトタイピング、カード・ソーティング、ペルソナなど初期段階のユーザリサーチ手法」 が使えるユーザリサーチの専門家を求めている。他にもオラクルやヤフー! などがペルソナを作れる人材を探して製品やサービスの開発を強化しようとしているのである。

日本でもこれから、ユーザ中心デザインの発想を持った人材がますます必要とされるようになる。 それとともにペルソナを使ってデザインを組み立てていく能力が大変価値あるものになると思われる。今後、ペルソナの認知が進むとともに、 各企業の中でペルソナ・デザインをリードできる人材が生まれることの支援が求められるようになるであろう。

 

 

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ペルソナ戦略、ダイヤモンド社(2007)

 

 

BillGates

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CHI2001でのビル・ゲイツ会長(http://acm.org/sigchi/chi2001/photos.html)