デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2007.06.11RFID技術とデザインの可能性

最近、ある展示物を作るためにRFIDを使った実験をしていた。RFID(Radio Frequency Identification)は無線でICタグのデータを読み書きする技術である。 無線を中心としたユビキタスコンピューティングを支える重要な基盤として、RFIDはこれから我々の生活に浸透していくと期待される。 しかし利用方法の開発という面ではRFIDはまだまだこれからであり、日常生活をはじめとして、物流、安全、製造、教育、 娯楽など様々な産業で新しいサービスがデザインできる可能性をもっている。

RFIDの読み取り装置は据え置き型やハンディ型など用途によっていくつか種類があるが、今回展示用に実験していたのはゲート型で、 1mほどの間隔のアンテナの間を通ると自動的にICタグを読み取る。外見は万引き防止ゲートと似ているが、 万引き防止用の共振タグは電波を反射しているだけなのに対して、ICタグは記録されたデータを読み出すので、 タグ一つ一つに固有のIDをつけて管理できるという違いがある。対象物にIDを付随させる点ではバーコードとも似ているが、 RFIDは無線なので非接触でデータを読めること、書き込みできるのでデータを更新できること、 条件が揃っていれば複数のICタグを同時に読み取りできることなど、バーコードにない利点を持っている。

RFIDに使うICタグはSUICAなどの非接触ICカードと混同されやすいが、ICカードにはCPUが入っている。 そのためICカードでは、複数のパスワードを記憶しておいて、 Webサービスごとにパスワードを使い分けるなどのアプリケーションが実行可能である。 ただICカードはSUICAを買うときに500円のデポジットが必要なことからわかるように、高機能である分、価格が高くなる。 また通信できる距離も数センチ程度である。これに対してICタグは安く作ることができ、より長い距離で通信できる。 ただ機能がデータの読み書きに限られるため、データを読み取った後はシステム側が処理していく形のアプリケーションに適しているといえる。

ICタグにはボタン型やアンテナ内蔵のチップ型などいくつか種類があるが、目にする機会が多いのはカード型である。これは、 ゴマ粒くらいの大きさのICチップとフィルム状のアンテナをプラスチックに封入して作っている。アンテナはカードの中で何周にも巻いていて、 読み取り装置からの磁界がアンテナを通ると電圧が生じてICチップが反応する。 だからICタグには電池がなくても非接触でデータのやり取りができる。ただ距離には制限があり、現在使われている中では通信距離の長い13. 56MHzを使うもので約50cm、これから普及が見込まれるUHF帯(952MHz~954MHz)で約3mである。 さらに長距離になると、ICタグが電池を内蔵して自ら電波を出すアクティブ方式を使うことになるが、 この場合は10m~20mの範囲で読み取ることができる。

RFIDはさまざまな分野で利用されようとしているが、物品管理は特に期待されている分野である。 ICタグは薄いフィルム状にできるので、表面を紙にしておくと、人間と機械の両方が読み取れるラベルになる。 そこで物品管理のためにラベル面の印刷と同時にデータを書き込むプリンターもすでに市販されている。 また物品の陳列棚のガラスにRFIDリーダのアンテナを仕込んでおいて、 棚から取り出したり元に戻したりする操作を自動的に記録するものも作られている。

セキュリティーでもすでにいろいろな応用があるが、これから実用化が期待されるものを挙げると、 松下電器産業が検証実験をしてきた街角見守りセンサーシステムがある。これは小学生のランドセルの横に手帳サイズのICタグをつけて、 通学時の無事を確かめるものである。ICタグにはアクティブ型とパッシブ型の2つを使っており、 読み取り距離が15m程度のアクティブタグで監視用ノードの付近を通過したことをチェックし、 距離が3m程度のパッシブタグでノードの直近を通過する子供を一人一人カメラで撮影する。 さらにノード同士が通信してデータを転送するセンサネットワークを使って、通過情報が保護者の携帯に届くシステムになっている。 このアプリケーションなどは、新しい社会のニーズに答えていると感じさせるものだと思う。教育関連で面白い応用をしているところでは、東京・ 神田神保町のブックハウスがある。この児童書店には、おはなしくまさんという大きなぬいぐるみがあり、 ICタグをはさんだ絵本を持っていくと本を読んでくれる。 また本を持って通路を通るとICタグを読み取って鳥かごの小鳥がさえずるという演出もしている。

ICタグは便利なものであるが、一方でICタグの情報が勝手に読み取られたりするセキュリティ上の危険もある。 知らない間にRFIDリーダの前を通って、どのような商品を買ったか第三者に読み取られてしまうというような問題である。 そのため経済産業省は、ICタグのついたままで商品を引き渡したときには、 タグが装着されている事実やタグに記録されている情報の内容を消費者が認識できるよう、 物品や包装上に表示を行うというガイドラインを示している。

これからICタグの低価格化が進んでRFIDが普及していく中で、 新たな使い方の場面やシナリオを考えていくことはすでに無線技術の範囲を超えており、 情報システムと人間とのインタフェースを扱ってきたデザインの領域に入ってきているといえる。ユビキタス・ コンピューティング時代のデザインに求められるものとは、セキュリティの心配など人間の心理面にも配慮しながら、 情報システムとユーザの両方のニーズを組み合わせていく能力ということになりそうである。

 

写真:ゲート型RFIDリーダ・ライタとICタグ(ラベル用のタグを裏から見たところ)ICタグ2