デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2007.12.10集合知がつくるマッピングデータ

今年はソーシャルネットワーキングやコミュニティサイトが何かと話題になった。 すでにユーザ数が1000万人を超えているといわれるmixiの発展に加えて、Second LifeやFacebookなど米国のSNSが波及した影響も大きい。 これらの人間同士をつなぐソーシャルネットワーキングは技術的には従来からあるインターネット技術の応用であり、 新しさはどちらかといえばサービス運用の方にある。 しかし多数が参加するコンピュータの利用形態という意味のソーシャルコンピューティングを考えると、 まだまだ技術的にも斬新なものが出てきている。

今年話題になったソーシャルコンピューティングのなかで、 技術的に一番興味深いのはペタマップ(petamap)とプレースエンジン(place engine)の組み合わせだと思う。 ペタマップは地理情報に関するコミュニティサイトで、気になる場所や特徴のある店についてのコメントを共有するものである。 これだけだとグーグルマップと同じだが、違うのは地理情報を持ち歩くデバイスとしてPSP(プレイステーション・ ポータブル)との連携があることだ。PSPに地図ソフト「みんなの地図2」を入れておくと、 ダウンロードしたスポットが地図と連動して表示される。また自分が地図にマークを付けた場所をパソコン経由でアップロードし、 その場所についてのコメントを共有することもできる。

そしてPSPでの地図利用を面白くしているのが、背後にあるプレースエンジンである。これはGPS信号の届かない建物内でも、 無線LANからの電波を使って現在位置を特定する技術である。無線LANのアクセスポイントは定期的にビーコンパケットを発信しており、 それをPSPが受信して、アクセスポイントの機器IDと信号の強さの情報を得る。ビーコンパケットは一方的に送り出されてくるので、 PSPはアクセスポイントに接続できる必要はなく受信さえできればよい。 そしてアクセスポイントの機器IDであるMACアドレスは原則的には世界中で唯一であるため、ビーコンパケットから機器IDを読み出せれば、 どのアクセスポイントの近くにいるかがわかるのである。

問題はアクセスポイントのIDと実際の地図上の位置とを結びつけることだが、 これはプレースエンジンを使っているユーザ全体が作り上げていく仕組みになっている。 もしPSPがアクセスポイントから電波を受けているのにその場所のデータがないという表示がでれば、 PSP上の地図で現在位置をマークしてからログを保存しておく。 ログには位置情報とともにそのときに受信していたアクセスポイントのIDが記録されているので、 後ほど保存したログをパソコン経由でプレースエンジンのサイトにアップロードすると、新たな対応がデータベースに追加されるというわけだ。 もちろん、すでに誰かが登録したアクセスポイントの情報は登録ユーザならばだれでも最新版をダウンロードできる。 今のところプレースエンジンのデータベースは1週間ごとに更新版を公開しているようである。

GPSがあるのになぜわざわざ無線LANのアクセスポイントの電波を使って現在位置を特定するのかというと、 建物内や地下ではGPSの電波が届かないからである。場所についてのコメントが集中する市街地では特にGPSが使えないので、 その代替手段が求められていた。携帯電話の基地局からの電波を使って場所を割り出す方法もあるが、 無線LANに比べて基地局がカバーする半径が大きいためにあまり精度がよくない。GPSも携帯電話の基地局も公共インフラだが、 それに頼らずに無数のユーザの作業の集積によってマッピングデータができてくるという方が愉快だし、 また実際にかなり使えるレベルのものができるのだから面白い。 プレースエンジンが保持しているアクセスポイントの推定位置をマッピングした画像をみると、やはり都心部や郊外の鉄道網、 道路網周辺の密度が高く、GPSが利用できない商業地域をカバーしている様子がわかる。ただし「みんなの地図2」 ではGPSを使わないのではなく、プレースエンジンと組み合わせることで現在位置を特定できる範囲を広げている。

プレースエンジンは突然出てきたサービスではなく、 ソニーコンピュータサイエンス研究所で温められてきたアイディアがもとになっている。 開発の中心人物である暦本純一氏は情報とそれを使う実世界との関係を研究してきた方で、 それがオフィスなどの室内から街や地域へと広がったのがプレースエンジンだといえる。 情報の世界と物理的な世界との接点はこれからも新しい技術によって開拓される可能性が大きく、注目しておきたい分野である。


図:PSP「みんなの地図2」の画面。GPSが使えない屋内でもプレースエンジンによって位置が特定できる。

PSP_PlaceEngine2