デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2008.02.12デスクトップ・アプリケーションの進化

これまでオンラインショッピングのサイトを見たり、ネットオークションの動きをチェックしたりというときには、 まずウェブブラウザを開いて、そこから目的のサイトに行くという手順が当たり前だった。 ところがこれからはデスクトップから直接ウェブにアクセスするアプリケーションが増えるかもしれない。というのはAdobe AIRのような環境が実用的になってきたためである。

Adobe AIR(Adobe Integrated Runtime)はHTML, JavaScript, Flex(ActionScript)を実行するための環境である。 従来はウェブブラウザやその中のプラグインがスクリプトの実行や表示を担当していたのだが、 それに代わってAIRという実行環境が一括して担当しようということである。しかもWindowsとMac OS、 将来的にはLinuxなどOSごとの差異もAIRが吸収するので、開発者は1種類のコードだけを書けばよく、 どのウェブブラウザが来てもよいように場合分けしていた部分が必要なくなる。 またセキュリティ上の制約からブラウザ経由で実行できなかったドラッグ&ドロップやローカルファイルへのアクセスもできるようになる。

ユーザから見ても、ウェブサイトと自分との間にブラウザが介入しないため、ちょっとさっきのページを見ようとブラウザの「戻る」 ボタンを押してしまったためにせっかく入力した内容が消えてしまった、というような不都合がなくなる。 また従来ブラウザを通して見ていた検索やショッピングなどのサービスが自分のデスクトップ上で表示されていると、 心理的にそのサービスと近い感覚を与える効果があると思う。

Adobe AIRは現在プレリリース版が公開されている段階で、2008年初旬に正式リリースされる予定である。 すでにいくつかの企業も試験的にAIRで実行できるアプリケーションを公開している。例えばeBayは、 ブラウザでアクセスするのと同じようにオークションの検索やビッドができるeBay Desktopを提供している。 eBayのウェブサイトと比べてAIRアプリケーションでは、 複数の検索キーワードの組み合わせを手軽に変えて再検索できるような便利なしくみが増えていることに気づく。 eBayは多様なユーザ環境で表示されるようにするため確実な技術しか使わないことで知られている。 しかしデスクトップ版ではブラウザ間の違いという制約から開放されるので、 ウェブサイトよりもインタラクティブ性の高いインタフェースになる可能性があるだろう。

もう一つAIRを使ったショッピング向けアプリケーションとして、 アパレルのAnthropologieのカタログをAllurentとScene7が作ったものがある。Allurentは、 ウェブページを何度も行ったりきたりするような面倒なことをせずに一つの画面で商品選択から関連商品の提示、 チェックアウトまでを自然な流れで行うインタフェースを開発した企業である。 またScene7はもともとサイズや視点を変えて商品を見られるような電子カタログの技術を持っており、現在はアドビ・ システムズの一部になっている。Anthropologieのアプリケーションでは、ユーザは印刷物のカタログのように服を眺めながら、 自分で書いたメモを商品の横につけておくことができる。これは自分のデスクトップでアプリケーションが動いているから可能になることである。 また面白い使い方として、気に入っている服の写真を持ってきて、それをアプリケーション内にドロップすると、 その服の色をカラーピッカーで抽出できるようになる。そしてその服と同系色のアクセサリーをアプリケーションが探してくるのである。 またアクセサリーや家具など興味のあるものをチェックしておくと、 ネットワークにつながっているときにアプリケーションの方が自動的にコンテンツを更新する。 つまりウェブサイトのようにユーザが来て情報を引き出す(pull)のではなく、 サイトの方からユーザに情報を送り込む(push)ことができるということである。

実はAIRはアドビ・システムズに吸収合併されたマクロメディアが以前からリッチ・インターネット・ アプリケーション(RIA)として描いていたFlashの将来像が、ここに来て実用化段階に入ってきたものである。その過程ではFlash PlayerもAIRに統合するために作り直したというほどの変遷があったようだが、ユーザにとっては例えばAdobe Readerなどアドビの他のアプリケーションとの連携もあるなど、合併を経てきたメリットがあるといえる。 AIRはブラウザを置き換えるものではないが、 ブラウザに閉じ込められたFlashにはできなかった新しいインタフェースを生むポテンシャルを持っている。 これからの動向が興味深い技術である。

 

図:eBay Desktopの画面。検索キーワードの組み合わせなどウェブサイトにはない機能がある。

ebay_desktop