デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

m.c.t.ホーム > エクスペリエンスマガジン > デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司 > 携帯端末の加速度センサによる知能化

2008.07.11携帯端末の加速度センサによる知能化

最近アップルのiPhone 3Gが話題だが、世界共通のプラットホームということに加えて、 そのプラットホームがモバイル環境でのブラウザやゲーム端末としても新しい使い方が開拓されそうで興味深い。 特に加速度センサなどにアクセスできるシステム開発環境(SDK)があることは、新しい用途の開拓を刺激するだろう。

加速度センサは日本では先行したiPod Touchにも組み込まれているので、 iPhone以前にも動いている様子を見ることができる。iPod Touchを縦と横に回転させると、 それにつれて画面内の写真やブラウザも縦方向、横方向に回転する。縦横が置き換わる途中も回転がアニメーションされるので、 単に縦横が切り替わるだけでなく回っているという実感が伝わる。もともと画面の比率は縦長なので横にすると画面の幅が広がるが、 そのときにはブラウザ内のページも再レイアウトされるので、画面の横が空いてしまうことはない。 加速度センサは動きが直接画面に反映されて見えるので、ついいろいろ動かしてみたくなる。センサの反応も十分スムーズな印象だった。

加速度センサといえばiPhoneだけでなく、振る動作によってゴルフのスイングやテニスのラケットになるWiiリモコンが有名だ。 Wiiのように振ることとiPhoneのように止めたまま傾けることは一見違うように思えるが、加速度センサからみれば区別はない。 傾きに応じてかかる重力と、振ることでかかる慣性力とは力学的には同じ力なので、両方とも同じセンサで測れるのである。

加速度センサのしくみをもう少し詳しく説明すると、おもりに相当する部分を細い腕が支える構造になっている。 加速度がかかると腕がたわんでおもりが定位置からずれる。センサを水平にしたときにおもりが重力で沈んだ位置を1Gとすれば、 センサを上下さかさまにすると重力が反対向きにかかるので、おもりは-1Gだけ反対方向に動く。この1G (Gはgravityを表す) を単位としておもりの位置を見ていれば、重力で自然落下する加速度の1Gに比べて何倍の加速度がかかったかを測れるというわけである。 このような動きがあの薄いiPod Touchの中で起きているというのも面白いが、 実際にはこの加速度センサ全体が小さいチップの中に収まっているというのもさらにすごいことである。

というのも、加速度センサがコンシューマー機器に使えるようになったのは、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の製造技術のおかげである。MEMSは20年ほど前から発展してきた技術で、 半導体素子と同じようにシリコンウェーハ上でレイヤー形成とエッチングを繰り返して微小な立体構造を作る方法である。 一度MEMSのプロセスが確立すれば、一枚のウェーハ上に多数のセンサを同時に形成できるので、より低コストになり普及が進む。 ちなみに初期の頃からMEMSの重要な応用は、自動車のエアバックを起動するための加速度センサであった。 それが普及して今日ではゲーム機器にも組み込まれることになったのである。

iPhoneの加速度センサは、モバイル端末においてセンサ集積化が進む流れの1つである。従来のモバイル端末のインタフェースは、 タッチパッドなどを通して人間の意図した入力を受けつけることが主だった。ところが加速度センサは、 ゲームに合わせていつのまにか振っているとか、写真が見やすい向きにいつのまにか回転しているというように、 意識しない行動も入力データとして取り込める可能性がある。ipod Touchの加速度センサの他の利用例としては万歩計のアプリケーションなどが作られているが、 これも歩数というデータが意識せずに端末に入力される事例の1つである。

今後も携帯やモバイル端末には温度、磁気、力覚など新しいセンサが組み込まれていくであろう。 携帯端末は所有者がはっきりしていてプライバシーの問題が少ないので、その点が開発者にとっては制約が少ないといえる。 所有者の様々な行動が意識せずにデータ化できることで携帯端末の使い方のデザインがどう広がっていくか、興味の持たれる分野である。

 

ipodtouch

 

 

 

 

 

 

 

 加速度センサが回転を検出して、写真やブラウザの表示が変わる。