デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2009.01.14自作文化と交流の場

先日Make Magazineの東京ミーティングに行く機会があった。Make Magazineは電子工作など自作好きの人のための雑誌で、3年前に英語版から始まり現在は日本語版も逐次出ている。 出版はコンピュータ関連の書籍で知られ、最近はWeb2.0の名づけ親としても有名になったティム・ オライリー氏のO'Reilly社である。

Makeミーティングの会場では、あらゆる種類の自作の装置が展示されていた。 電熱器の上で回転する金属カゴの中にコーヒー豆と温度計を入れ、温度を見ながらヒーターを制御してじっくり焙煎する機械、 携帯電話のボタンが小さすぎる人のために携帯を組み込んで操作するテーブルサイズの操作盤、 台の上で転がすとその場所の色に反応して同じ色になるボールなど、それぞれ文章にすると何かの役に立ちそうだが、 たぶん実用には役立たないガジェットが集まっている。もっともこのミーティングの意義は面白さを共有することなので、 その意味では確かにこれらのモノ達は役に立っているのだが。

それにしても驚いたのは、会場のかなり広いギャラリーが一杯になるほど人が来ていることだった。 来場者の年齢層は20~30代が中心で女性も多い。これだけ自作好きの人が集まるのは、 自作のものを見せ合うことが面白くなったということだろう。自作といえば以前はオーディオマニアなど、 どちらかというと内向きなタイプだった。しかし今ではマンガにコミケがあるように、 自作好きの人にも見せ合うことが楽しいコミュニティができつつある。Make Magazineのブログ効果もあると思うが、 時期的にこれから面白くなるというタイミングだったことも大きいだろう。

自作したものを見せるのが面白くなった理由のひとつに、簡単にいろいろなアイデアが試せるようになったことがある。 Arduinoなどの手のひらサイズのマイクロコンピュータのボードは3千円ほどで入手できる。 その端子にLEDや携帯の振動モーターなどをつなぎ、パソコンからプログラムを送ればさっそく動きだす。 プログラム言語自体が高機能になっているので、センサやLEDの入出力ならばウェブの説明を見るだけで十分できる。 自作で電子回路や制御をやってみるときの敷居の高さは、コスト的にも技術的にもほとんど無くなったといえる。

自作のもうひとつの傾向は、電子的に動くものでありながら生物に関係のあるもの、生物からヒントを得たものが多いことである。 たとえばMakeのベストプロジェクトの本で紹介されているPummerロボットは、昼間は太陽電池から充電して、 夜になるとLEDを点滅させる。多くの人が回路や形状に工夫を凝らしてこのアイディアを形にしているが、 いずれも植物や昆虫を思わせるものになっている。夜になると光るので夜行性という形容詞がついているが、 そのような言葉からも生物のイメージがうかがえる。

生物に向かう方向をさらに進めると、服やアクセサリーなど人間が直接身に着けるものにも電子工作のアイデアが広がってくる。実際、 Make Magazineの姉妹雑誌にCraftがあり、 こちらはLEDがキラリと光る帽子やアクセサリーなどを自分で作ろうというハイテク手芸のための雑誌である。 Craft誌からファッショニング・テクノロジーという本を出したSyuzi Pakhchyanさんは、 ファッションは昔から細工技術やミシンなどのハイテクとともに歩んで来ており、 今日のスマートな技術もまたファッションの発展に役立つと述べている。

Craftのスペースには渋谷手芸部というグループ活動の女性メンバーの方々が出展していて、 なかなか普段は見たことがないようなマスコット、パッチワーク、アクセサリーなどを展示していた。 オーガニックやロハスなどライフスタイルのようには大げさでなく、 机の端でちょっとしたプロジェクトをすることや何か自分の手で作っていくことに充実した喜びがあることが、ここの方々から感じられた。

ひとりで引きこもる遊びが多い時代に人と共有する場が成り立っていることは、 自作という趣味がいま珍しい位置にいることを示していると思う。 このようなところからデザインについての楽しいアイデアやニーズが出てくる可能性もある。 Pummerを発展させたインテリアなどは直接的なものと思うが、 その他にも導電性素材のファッションへの応用などが本格的に試されていくだろう。 その服を最初に普段着として着てみる人たちもここから出てくるに違いない。今後、 自作のコミュニティがどのように推移していくのか注目しておきたい分野である。
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Make第2回東京ミーティングの様子(http://jp.makezine.com/より許可を得て転載)