デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2009.02.10集合知を作り出すためのインタフェース

Windows用のApple iTunesユーザに人気のあるVoralent Invidi(ヴォラーレン・インヴィディ) というツールがある。iTunesと連動して、現在再生中のCDのジャケット写真(アートワーク)をグーグル・ イメージで検索してくれるものだ。ただし検索はアルバム名やアーティスト名をキーワードにしているので、 検索結果には間違ったものも含まれている。 また同じアートワークでも色や解像度が悪かったり帯をつけたままスキャンしていたりと画像も様々である。 それらの中でユーザが一番良いと思うものを選んでiTunesに転送すると、その画像がアートワークとして登録されるようになっている。

これだけだと便利な自動化ツールだが、Invidiが面白いのはユーザがiTunesに画像を転送するのと同時に、 その画像に対して1票が投票されるようになっていることである。Voralentのサーバは投票を受け取り、 どの画像が何回選ばれたかを集計している。Invidiはグーグル・イメージで画像を検索するときに投票サーバにも問い合わせて、 票が多い順に画像を並べてユーザに提示する。つまり正しいと判断された回数が多いほど上位の候補として表示されるのである。

こうして投票が増えるたびに正しいデータは強化され、間違ったデータは自動的に修正されて精度が上がっていく。 画像自体はオンラインショップや一般のブログにあるものを参照しているだけで、Voralentのサーバが収集しているわけではない。 サーバはあくまでどこにある画像が何回選ばれたかという集計だけを行っている。Voralentの本当のサービスは、 投票を通してユーザの集合知を作り出すことである。InvidiはiTunesと連動する検索ツールであるとともに、 投票のインタフェースの役割をしているのである。

集合知を作り出すインタフェースとしてInvidiが参考になるのは、投票に実感を持たせている点である。 投票作業そのものは自動的に行われるので特に意識する必要はない。しかし投票結果のウィンドウを開くと、 いまこの瞬間に次々とユーザから投票されてくる画像を見ることができる。そして自分がiTunesに画像を転送した直後に投票結果を見ると、 確かに同じ画像がその中に並んでいる。自分の投票が届いたことがすぐに見える視覚的なフィードバックがあることで、 個人の選択の集積がこのシステムを動かしているという実感が持てるのである。

ところでこのサービスを提供することにどのようなメリットがあるのだろうか。 一つには音楽とアートワークを正確に対応づけるデータベースができれば、それ自体が価値を生むことになる。 例えばインターネットのラジオ局がストリーミングしている曲をアートワークで表示すれば、多数あるラジオ局の選択の助けになる。 さらにそれが音楽の購買につながれば宣伝効果にも結びつく。このような直接的な利用にはデータベースの正確さが重要なので、 投票システムと連動していることは大変有利である。

もう一つのメリットは、投票によって精度が上がる検索の仕組みをシステム化して運用できることである。 投票は音楽や本についての評価を書き込むことに似ているが、評価の場合はある程度知識を持った人が自発的に書かなければならない。 それに対してアートワークは、誰もが迷わずに選べて投票も自動的になされるので多数の意見が集約しやすい。 このような投票を安定して運用するシステムは、アートワークに限らず他分野でも応用していくことができるだろう。

ジェームズ・スロウィッキーの「みんなの意見は案外正しい」という本に、ビンの中のジェリービーンズという実験が紹介されている。 ビンの中にいくつジェリービーンがあるかと聞くとみんな答えはばらばらだが、 何十人かの平均をとると驚くほど正しい答えに近い数字になるというものだ。 同様に何かを推測する場合に多数の人が簡単に入力できる仕組みを作ると、それを集計した結果が正しい答えに近づくことが期待される。 そのような集合知によって支えられるサービスには、今後も新しいものが出てくると思われる。その時Invidiの例に見るように、 ユーザに参加している実感や視覚的なフィードバックを与えることが重要になってくると思われる。 集合知を作り出すためのインタフェースとして、今後どのようなものが開発されていくかに注目していきたい。

 

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図:Voralent Invidiの画面。左横の小さい画面は最新の投票結果で、iTunesに転送した画像もここに加わっている。