デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2010.03.19愛着を維持するパターン

我々は長く使っているモノに愛着を持つようになる。年代物になっても買い替えたくない車や、機能的に優れたものが他にあるのに使い続けているポータルサイトなどは、愛着がある例である。

愛着は経済的、合理的な判断を超える力を持っていて、愛着自体が使い続けたいという動機になる。製品やサービスへのロイヤリティを増して長期的につき合うことにつながるので、愛着を持ってもらえることはデザイン上望ましいことである。

ただ、長く使っているモノに生じる愛着は、ユーザ自身もなぜそれにこだわるのか意識していない場合がある。習慣化しているのでそれがない場合が考えにくいし、他と比べたときの損得も重要だとは思えず、聞いても明確な答えが返ってこない。あるいはヒアリングをしても個別の事情に強く依存した言葉になり、そのまま新しいデザインに応用できるような一般性がない。

そこで最近、ペルソナ&カスタマエクスペリエンス学会では、人々が製品やサービスに愛着を持つようになった経緯を集めて、いくつかの共通パターンを抽出しようとしている。そのためにまず、愛着を持っているものを選んでもらって、インタビューや自分自身で振り返る形で愛着の変化をグラフ化する。するとある程度長くつき合っているものでも、確かに途中のいろいろな経緯で愛着が変化してきたことが視覚化される。その変化の方向や原因をパターン化して、愛着を持つようになるシナリオづくりに利用しようというわけである。

ただ愛着ということ自体が幅広いので、パターン化に際しては2つの側面を取り出している。一つは満足で、対象としているモノやサービスがこれで良いとすることである。もう一つは執着で、それがなくなると不利益があったり競争に負けたりすると感じて離れられないことである。面白いことに辞書を見ると、漢字で書くと同じ愛着の中に、愛着(アイチャク)という「人や物への思いを断ち切れないこと」の意味と、愛着(アイジャク)という「欲望にとらわれて執着すること」(いずれも広辞苑より)の意味が重なっていることがわかる。前者は一緒にあると満足すること、後者はなくなると困ると執着することに当たると考えている。ちなみに後者のアイジャクは愛著とも書いて、もともと仏教用語から来ているそうである。

さて、下のグラフは、2つのケースについての愛着、満足、執着の変化を対比させたものである。1つめのケースは、あるソーシャル・ネットワーキング・サービス (SNS)のユーザが、過去5年間でどのように関わって来たかを示している。曲線の一つ一つの細かい変化にも理由があるのだが、大きな動きを見ると、始めて1年後まで愛着が急上昇した後、3~4年目で落ち込み、その後また復活している。落ち込んだ原因はSNSでつき合う人が固定化したり、他にも同様なサービスが出てきたことなのだが、復活するのはゲーム的に遊べるアプリが出てきて新しい形で楽しむようになったためである。期間全体を物語に見立てていくつかのフェーズに分けるという質問に対して、このユーザは最後の復活した時期を新しいフェーズとしてそれ以前と区分している。

もう一つのケースは、ここ半年ほどの韓流ドラマについての経験である。これを見ると愛着はほぼ単調に上がっていっている。しかし全体を3つに分けた第1フェーズの終わりでは、そのときに見たドラマが面白くなく、愛着が少し下がってしまっている。しかしその後、ある俳優のファンになってドラマを追いかけて観るようになり、第2フェーズからは愛着が急上昇している。第3フェーズは外的な要因が重なって自分の中での依存が高くなり、さらに愛着が強くなっている。

もしこの2つが同じパターンをたどるならば、韓流ドラマは今後の半年ほどで愛着のピークを迎えた後、次第に下がる時期に入るはずである。その後また新しい関わり方が見つかれば、改めて愛着が上がって行く可能性もある。それから現在のフェーズで比較すると、SNSのケースでは愛着と満足が高く、執着は一時期よりも落ち着いている。一方の韓流ドラマのケースでは執着が高い状態が続いている。このことから、韓流ドラマのケースで今後の落ち込みが緩やかになるには、満足が高く執着がほどほどに落ち着くことが望ましいといえる。

このように愛着を持ったり長く維持したりするという観点では、個別の場合から一般化して他に当てはめられる形にすることが有効なようである。今後さらにケーススタディを進めるとともに、愛着を持つシナリオを作ることへの応用が期待される。


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ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)(左)と韓流ドラマ(右)についての愛着の時間的な変化。SNSの方が約5年間の経過の後、満足が高い状態で落ち着いているのに対して、韓流ドラマの方は執着の方が強い状態になっている。