デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2010.07.22これも自分と認めざるをえない展

7月16日から11月3日まで、東京ミッドタウンの21_21デザインサイトで、佐藤雅彦ディレクション「これも自分と認めざるをえない」展が開かれている。現在、様々な場面で個人認証や個人情報に関わることが多くなり、現代人としては属性ということに関心を持たざるを得ないが、しかし一方でまだ属性ということ自体がよくわかっていない。この展示は、まだやったことのないものに挑戦するという21_21デザインサイトの趣旨にも沿って、属性という未知の領域に目を向けている。

「これも自分と認めざるをえない」という展示のタイトルは少し変わっているが、もともとは「これもまさしく自分である」、あるいはもっと遡れば「属性」として、人間の様々な属性を取り出して見せる展示を想定していた。ところがディレクターの佐藤雅彦氏を中心に、今回の展示に参加した20名あまりの表現者や研究者が属性について考えていくうちに、例えば自分にあるべき属性がないのに気がついていない、あるいはもともとない属性なのにある気がしてくるなど、自分が知っていると思う属性を単純に積み重ねただけでは自分を規定できないことに思い至り、まだ何があるかわからない未知の領域も含めてこのタイトルに行き着いている。

会場では地上階と地下一階の広い空間に作品が配置されている。自分のシルエットの輪郭がほどけていって一本のロープの長さになる「Outline to go」、顔認識システムが男性か女性か、29歳以下か30歳以上か、笑顔か無表情かを判断してゲートを開ける「属性のゲート」、鉛筆の持ち方で個人が勝手に分類される「1組・2組・3組・4組」、自分の心臓の音がいつのまにか運動会でスタートラインに立つ子どもの鼓動に重なる「心音移入」など、計23点の作品があり、それぞれが理屈抜きで体験したり鑑賞したりして楽しめるようになっている。そして全体を見終わった後に、改めて属性について考えてもらえる展示になっているのではと思う。

展示空間の中で小屋のように見えてひっそりと目立たないけれども、ぜひ体験していただきたいのが「金魚が先か、自分が先か」(譜久原尚樹+深谷崇史+佐藤雅彦)である。小屋の中に洗面台があるのだが、その鏡を覗き込むと自分が映っていない。ただ自分が映っていないことに気づく前に、自分以外のあるものが映っていることの方に先に意識がいってしまう。もしかするとそちらに気を取られて、自分が映っていないことには最後まで気づかないかもしれない。それでも不思議に思わないほど、人間は自分自身のことに実はあまり注意を払っていないという、そんな自分を認めざるをえない体験ができる展示である。人間は他人には注意を払うが、自分自身はキャンセルして忘れているということは、展示の準備の中で発見したことの一つである。

今回、私も佐藤雅彦氏と共同で「指紋の池」という展示を作った。これは指紋認証を使っていて、鑑賞者が指紋をスキャンすると、しばらくしてその指紋が見ている前で泳ぎ出す。向こうにはこれまでに来た他の鑑賞者の指紋が群れをなして泳いでいて、自分の指紋も群れの中に入って行く。ところがもう一度指紋をスキャンすると、今度は放流した自分の指紋が気付いて、群れから出て自分のところに帰ってくる。自分の指紋が群れから離れて急いで自分のもとに帰ってくるのは実にいとおしい感じがして、思わず指紋に「お帰り!」と声をかけている鑑賞者もいるほどである。普段あちこちにつけている自分の指紋など全く意識しないと思うが、それが泳いで自分のところに帰ってくると、途端に自分の一部であるという気になるのが新鮮である。

指紋認証についてご協力いただいたNECの幸田芳紀氏によると、日本の指紋認証技術は世界でも先端を切っていて、米国カリフォルニア州をはじめ海外の警察でも大規模に導入されている。犯罪捜査向けの高速マッチングができるものと、「指紋の池」で利用させていただいた汎用のものではシステム的に異なるが、汎用のものでもひとり一人の指紋を他人と区別してかつ本人には一致するように調整しながら非常に軽いデータにして、普通のワークステーションで毎秒何千個と照合できるようにしていることは、やはりこの技術での圧倒的な優位を示している。

ただ指紋認証に限らず、個人の属性を扱う認証技術はなかなか表に出ることがない。実は「これも自分と認めざるをえない」展の準備段階では、NECの指紋認証技術の他にも、オムロンの顔認証技術、東芝の文字認識技術などの開発者から直接ご指導をいただく機会があった。やはりメーカーとしては規模や精度を極めることが優先であるのはもちろんだが、今回の展示のような人間の意識の面にまで関わる領域についても、開発者の方々には技術的制約を超えたチャレンジとして好意的に受け取っていただいた気がしている。同時にこの領域には、まだまだこれから表現やデザインが関われる可能性が多いと感じた。

展示会場では受付の後でいきなり展示を見るための4つの準備として計測する場所があったり、いろいろ注文が多いので、少し時間に余裕を持って回っていただければと思う。

21_21 DESIGN SIGHT
http://www.2121designsight.jp/


shimon.JPG

「指紋の池」ユークリッド(佐藤雅彦+桐山孝司、2010)、
21_21 DESIGN SIGHT企画展 
佐藤雅彦ディレクション“これも自分と認めざるをえない”展
協力:日本サムスン株式会社、日本電気株式会社、藤田至一、
Photo: 田村友一郎