デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

m.c.t.ホーム > エクスペリエンスマガジン > デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司 > カラーハンティング展

2013.07.29カラーハンティング展

藤原大ディレクション「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」が21_21 DESIGN SIGHT(東京ミッドタウン・ガーデン内)で開かれている。空の色、生物の色、水が出す色など自然のものから、食物の色、肌の色、唇の色など身近なもの、言葉から連想する色など概念的なものまで、世の中のさまざまな物や事象に由来する色をテーマとした展示会である。いずれも色を出発点として、そこから藤原氏の着想を経てデザインされたものと、その経緯を記録した映像やドキュメントを見る事ができる。全体として、色という入口からデザインされたモノへとつながるプロセスをたどれる展示になっている。

我々も今回、ライオンから採った色をもとに靴をデザインした作品「ライオン・シューズ」に参加した。藤原氏がアフリカのセレンゲティ国立公園で実物のライオンと見比べながら水彩絵の具を混ぜて作った色見本をもとに、スペインの靴ブランドのカンペール社が靴を制作している。紙と布で織った靴の生地でライオンの色を再現し、たてがみのふさふさや茶目っ気のあるしっぽが表情を加えている。全部で10種類のライオン・シューズはどれも個性的で、一つのベースモデルから出来ていると聞くとそれだけのバリエーションを作り出せることに驚く。

我々はスペインのカンペールの工房から送られて来たライオン・シューズを受け取り、それらを乗せて群れのように動くモーション・システムを制作した。ライオンの色から出発して走る靴のデザインに至るというのは、最初聞いた時には唐突に思えた。しかし身近なものの中で動きに直結する靴でライオンを表し、さらにそれを群れにすると強い印象を与えるという着想は藤原氏の中で明確にあったようである。アフリカの大地から採取したマサイレッド色のテーブルにライオン・シューズを乗せてみると、確かにりりしく際立った様子になる。本当はヌーの黒い靴を追いかけてライオン・シューズが走るのが藤原氏のイメージだったのだが、靴が多いと込み合うのでヌーは一旦隠している。会期中の改良により、もしかすると黒いヌーも登場できるかも知れない。

この展示では、靴を乗せたロボットが4.5m × 3.6mのテーブルを動く。テーブルが広いため、ロボットの位置を4台のビデオカメラで追跡している。ロボットの後ろの黒い箱にはそれぞれ固有のIDを持つマーカーがついており、箱の中から赤外線LEDの光が出ている。人間の目には見えないが、赤外光だけを受けるビデオカメラで見ると、マーカーが光ってロボットの位置と方向が分かるようになっている。同じような移動ロボットとしてロボカップの小型機リーグがあるが、そこでは色のついたマーカーでロボットを区別している。色を使うとマーカーの持つ情報量が多くなるので、区別するロボットの数が同じならばマーカーを小さくできる。ただ今回のカラーハンティング展ではテーマ以外の色が視覚的に邪魔しないよう、また照明条件にも影響されないように、赤外光だけで見える色のないマーカーになっている。用いているマーカーはリアクティビジョン(reacTIVision)というシステムの一部として開発されたもので、通称アメーバと呼ばれる独特の有機的な形をしている。QRコードのようなマーカーでは格子状の黒と白の配列から情報を取り出すのに対して、リアクティビジョンのマーカーは黒地と白地の包含関係(トポロジー)から情報を取り出す。黒地の中に白い部分があれば一段階、その白地の中にさらに黒い部分があれば二段階と包含関係に沿って枝分かれした木構造を作り、枝分かれの仕方でマーカーが一致するかどうかを判断するのである。こうするとマーカーのサイズが変わったり斜めになったりしても木構造は変わらないので、変形に強いマーカーができる。リアクティビジョンを開発したマーティン・カルテンブルナーらはもともとバルセロナにあるポンペウ・ファブラ大学(UPF)のミュージック・テクノロジー・グループで、テーブルに置いた物を操作すると音が反応するプログラムを開発していた。その成果はオープンソースとして公開され、リアクテーブル(Reactable)というシンセサイザーも製品化されている。リアクティビジョンは理論的にも優れているが、基礎研究から出てきたものとしてはまれに見る実用性も高いプロジェクトである。

カラーハンティング展では他にも、微妙に色合いの異なる藍染めの短冊が風鈴となって整列した「夏の音色」(女子美術大学・渡邊三奈子教授らの制作)、各地の水源から集めた水でハンカチを染めて水質の違いを見せる「みずいろハンカチ」(東京工芸大学・大嶋正人教授らの制作)、お寺の軒下に生えるコケから屋根を葺く銅の成分を抽出して結婚指輪にした「苔ッ婚指輪」(理化学研究所・井藤賀操氏、野村俊尚氏、博古堂・後藤圭子氏の制作)、正倉院の古文書から古代の色を再現した「国家珍宝帳」(東京工業大学・小見山二郎名誉教授、古典織物研究者・中島洋一氏、草木染研究者・山崎和樹氏の制作)、野菜から着色料と香料を取り出して色と香りのパレットを作った「ベジスイ・やさいぴぐめんと」(常磐植物化学研究所とSoup Stock Tokyoの制作)などの展示があり、それぞれ色から派生する奥深い世界を展開している。

色という入口からデザインする旅を藤原氏の目線でたどれる展示になっているので、この夏機会があれば訪れてみていただければと思う。

21_21 DESIGN SIGHT企画展 藤原大ディレクション「カラーハンティング展 色からはじめるデザイン」(2013年6月21日~10月6日)


lion_shoes_2.jpg


(Photo:木奥恵三)

「ライオン・シューズ」(靴:カンペール、モーションシステム:赤川智洋、井上泰一、桐山孝司、山本明弥香)