デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2013.09.19メイカー・フェアとオープンフレームワークス開発者会議


今年8月に山口市でヤマグチ・ミニ・メイカー・フェアが開かれた。メイカー・フェアは技術を使った工作や手芸の展示会で、レーザーカッターで切り出したベニヤで躯体を作った移動ロボットやLEDをフェルトに埋め込んだアクセサリなど、手作り感一杯のものが出展されていた。個人だけでなく大学や企業も出展をしており、京都の西脇畳敷物店が畳で作ったギターや、省エネのコンサルティングをしているひのでやエコライフ研究所が作ったエネルギーの負荷を体験できる自転車発電装置など、アイディアのある活動を見ることができた。

今回のヤマグチ・ミニ・メイカー・フェアは、西日本で初めての開催で控えめにミニとしているが、それでも100グループが出展して千平米の広いスタジオが来場者で一杯になるほどであった。技術系の出版社であるオライリーが主催するメイカー・フェア(今回は山口市と共催)は年々規模が大きくなっており、2012年12月の日本科学未来館での開催では出展が240組、来場者が9,100人、今年の米国のベイエリアのメイカー・フェアは出展800組、来場者12万人以上とのことである。そんなことをやっている人がいるんだと驚いたり、どこで材料を手に入れたのと直接聞いたりできるつながりの面白さが魅力のようである。

今回のメイカー・フェアに関連して興味深かったことは、YCAMで同時進行していたopenFrameworks開発者会議がメイカー・フェアの会場でセミナーをしたことである。openFrameworksはメディアを使ったプログラミングをしやすくするために、共通に必要な部分をあらかじめ組み込んだC++ベースの開発ツールである。C++はもともとは技術者がCGや制御のために使うような言語だが、openFrameworksによってクリエイターが自分で、あるいは技術者と一緒に表現に使えるようになった。メイカー・フェアを見に来た人たちも、openFrameworksの開発事例の発表の時にはスクリーンのまわりを取り巻いて見ていた。

比嘉了さんはライゾマティクスのチームとして参加した今年のカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでの、Perfumeの衣装に映像を投影したパフォーマンスを紹介した。Perfumeの3人の衣装をリアルタイムで画像認識して、その上に重ねて映像を映しているこのプロジェクトは、プロジェクションマッピングの最新の成果として注目された。これからは建築物だけでなく、人間や車など動くものにプロジェクションができることを示したパフォーマンスである。ジェームス・ジョージさんはRGBDToolkitを紹介した。これは奥行きセンサーのKinectと通常の一眼レフカメラとを同じ三脚に取り付けて、3Dの動画を撮影するツールである。通常の3D撮影では左右のカメラの位置を正確に調整しないといけないが、このツールはKinectを使って簡単にしている。ジェームスさんはもともと映画を撮るためにこのプロジェクトを始めており、開発者へのインタビューを撮影してドキュメンタリーフィルムCloudsを作った。米田研一さんはCGで水彩画を再現する作品を紹介した。コンピュータ内部で画像を変換する機能を使ってブラシの軌跡から水彩画のように透明なにじみのある絵を作り出している。

今回openFrameworks開発者会議がYCAMで開かれたのは、YCAMの中のインターラボ(InterLab)と関係がある。InterLabは20人ほどの開発チームで、組織的にはYCAMの中の開発部門である。しかしその活動は内製の展示だけではなく、他の美術館に巡回に出て行く展示を作ったり、滞在アーティストと一緒に作品を支える高度な技術の部分を開発したりしている。openFrameworksの開発も支援しており、今回の開発者会議の参加者にもこれまでにYCAMで滞在して制作した人がいた。行政が運営する組織の中でこれだけ外部と関わって物を作っているところは珍しい。InterLabが関わっている展示の一つに「コロガルパビリオン」がある。YCAM屋外の敷地にある木材で組んだ大きな円形の構造物だが、床が巻き貝の中身のように斜めになっていて、子供が自由に走ったりころがったりできるようになっている。一見アスレチック施設のようだが、床にはカラーLEDやスピーカーが仕組んであり、遊んでいると気がつくようになっている。YCAMの開発するメディアがモニタやスクリーンなどの目を通して見るものだけでなく、身体全体を通して体験するものだということが具体化されているといえる。しかも遊びにくる子供自身が、どうやったらコロガルパビリオンでもっと面白いことができるかという話し合いをして、その結果をさらにInterLabがものとして作ってしまうという、デザインの試みとしてもユニークな活動をしているのである。

山口市という新幹線からも空港からも離れた場所にこれだけの蓄積ができているのは驚くことであり、ネットがあればどこでも仕事ができる今、他からあえて距離を置くことの意義を改めて考えさせられる。今後も地道だが波及効果の大きいプロジェクトが継続的にここから出てくることを願いたい。

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ヤマグチ・ミニ・メイカー・フェアの会場でのopenFrameworks開発者会議の発表。


Clouds: beta from Deepspeed media on Vimeo.

ジェームス・ジョージがRGBDToolkitで撮影したドキュメンタリー「Clouds」