デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2014.02.14拡張現実の進展


一年ほど前のことだが、ドミノ・ピザのキャンペーンで初音ミクとコラボレーションしたアプリはAR(Augmented Reality, 拡張現実)の応用として印象的だった。スマートフォンを通してピザの箱を見ると、そのステージの上で初音ミクが踊っているのが見えるアプリである。そして以前からARに関心を持っていた方ならば、マーカーレスのARの普及を強く印象づけられたと思う。QRコードのようなマーカーを使わなくても、ピザの箱の絵のように自由な画像を使えるのがマーカーレスARの利点である。

ARのアプリでは、実世界の画像の上にちょうど重なるように位置と角度を計算してアニメーションを出す。スマートフォンはカメラを通して自分の相対的な位置と姿勢を割り出しており、このような画像認識を使うARをビジョンベースと呼んでいる。それに対してGPSや方位センサーで位置と姿勢を特定して、その先にある駅や店舗などを表示するARはロケーションベースと呼ばれる。いずれもスマートフォンの高機能化によって、位置の検出やアニメーションの描画がリアルタイムでできるようになったことがARアプリを技術的に支えている。

ビジョンベースARの中で、LayarのStiktuはクラウドとの結びつきを試みたアプリである。自分が見つけた図柄の写真を撮ってアップロードすると、同じ図柄を見つけた人がクラウドの中で検索される。そしてその人の書き込みや落書きが、自分が見ている画面にも重ねて表示される。人目につくアイコンは誰かが書き込みしている可能性が高く、スターバックスのロゴなどは共有しやすい対象である。自分の見つけたアイコンに他人が何を書き込んでいるかは自然と興味がわくので、遊びではあるけれども面白いアイディアである。

マーカーレスARは写真のような印刷物もターゲットにできるが、それだけだと利用者にとってARのアプリを通してコンテンツが見えるという手がかりがないので、どうすればアプリを立ち上げてもらえるかというデザイン上の課題がある。雑誌のページやパッケージのある商品ならば、やはりARアプリで情報が見えることを印刷によって案内するのが良いようである。QRコードも初期の頃は普通にカメラで撮影したが何も起こらないと誤解されたこともあったそうで、ARについても今の段階ではアプリを通して見ることに利用者が慣れてもらう必要がある。現在商業的に提供されているARブラウザにはLayar、Junaio, Wikitudeなどがあるが、コンテンツの開発環境はそれぞれ独自である。グラーツ工科大学(オーストリア)のTobias Langlotzらは最近の論説でARとWeb2.0を比較して、ARがウェブのように普及するにはコンテンツの互換性がとれることが必要だとしている。また今はコンテンツの制作環境は主にデスクトップだが、Web2.0のようにエンドユーザが作り出すコンテンツが主流になるには、制作環境自体も現場で使える方がよいと指摘している。今後グーグルグラスのようなウェアラブルデバイスの普及とともに、ジェスチャーや身体の動きなどを使ってコンテンツを組み立てることが多くなると思う。

ARの歴史は意外に長く、すでに1970年代なかばから1985年頃にかけて、マイロン・クルーガーらがVIDEOPLACEという先駆的なシステムを開発している。その中では人がシルエットで数字やアルファベットを選択したり絵を描いたりする。またコンピュータが手のシルエットから輪郭を検出して、両手の間にちょうどフィットするように楕円を描いたり、身体のシルエットにくっついてくる生き物を表示したりする。クルーガーは、知性には論理的、演繹的に考える面と、物理的な世界を理解したり操作したりする面があると分析し、コンピュータと関わる時に後者の知性を重視した。そして人間が身体を使って操作できるようなモノとグラフィックスの世界を「反応する環境」(responsive environment)と呼んだ。クルーガーが試みたことが今やスマートフォンでできるようになったわけだが、そこで改めて反応する環境として何を作ればよいかが問題になる。アニメーションやテキストを表示するARだけでなく、これから物に結びついた形で身体的に操作するインタフェースができてくることを期待したい。

Tobias Langlotz, Jens Grubert, and Raphael Grasset, Augmented Reality Browsers:
Essential Products or Only Gadgets?, Communications of the ACM, vol. 56, no. 11, pp.34-36 (2013)


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Layar Stiktuの画面。認識した画像に他人が描いた落書きが重ねて表示される。