デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2010.08.19デザインとメンテナンス

先日、ある機械の修理を依頼することになった。注文生産品でしかも英国のメーカーなので大がかりなことになるかと思っていたのだが、輸入元の会社の社長から迅速にメーカーに連絡を取っていただき、交換部品が最短日数でフェデックスで送られてきた。しかも運がよいことに、たまたまそのメーカーから設計者とメンテナンス技術者が日本に出張に来ていて、交換部品が届くよりも前に打合せの合間を縫って2人で現場に機械の状況をチェックしに来てくれた。おかげで修理を依頼したのが金曜日の夜だったにもかかわらず、時差もプラスに手伝って、翌週の水曜日には完了というスピード対応をしていただくことができた。

実はその故障の原因は、機械を制御する電子基板の不具合だったのだが、それを特定するのに設計者とメンテナンス技術者ではアプローチが違うのが興味深かった。設計者は機械に接続している信号線の配線に間違いがないか、電源やアースが不十分でないかなど、ユーザーマニュアルで推奨されている方法から外れている箇所を調べていった。ちょうど意図した設計図があって、それに合っていない箇所があるのではという見方である。

一方でメンテナンス技術者は、こちらの説明を聞くのを重視して、自分でも不具合を再現しようとしながら基板をテスターでチェックしていった。そして最終的に、基板に取り付けられている小さなコンデンサーの不良でクロックが正常に働かず、基板間の通信ができなくなって動作が止まるというところまで問題を絞り込んでいった。メンテナンス技術者は、設計とは別に現状はどうかという考え方をして、症状からさかのぼって原因まで行き着いたわけである。いつも現場で無数にある原因の可能性に直面しているため、まず状況を聞いて、確かめながら原因を絞り込んでいく診断の考え方に慣れているようであった。

もちろん設計者からの指摘にも有用なことがあった。この機械に制御信号を送るには機械式リレー(コンピュータで操作する接点)が想定されているのだが、我々は使いやすさから半導体リレーを使っていた。ただそうすると素子の特性で生じる電圧が邪魔をして、機械に信号が正しく伝わらないかもしれないという指摘である。実際には正しく信号を送れていたので問題はなかったが、設計上の想定を再確認したことで、次に問題が生じたときにはまずここを疑うことができる。ちなみにメンテナンス技術者は、機械式でも半導体でも動いていれば問題ないという、あくまで現状重視の反応であった。これもおそらくフィールドでいろいろな使われ方を見ているので、許容範囲がわかるようであった。

設計技術は、全体の構想から細部に至るまでこうなるべきだという計画を立てて、その通りに稼働するのを確認するまでが守備範囲である。ただ実際に人がものを作るのを見ると、設計でいろいろな可能性を押さえられるようになるには熟練が必要だし、使い始めてから出る不具合もある。そのためどうしても想定外の問題に対応する役割がメンテナンスに回ってくる。一方で使う側から見ると、メンテナンスでの正しい診断は安心につながる。今回の場合、結局は基板全体の交換になった。しかしそれでも交換部品が届くまで、問題の箇所の様子を見ながら使っていればよいことがわかっただけでも大きな安心感が得られた。適切な診断から得られる情報は付加価値が高いのである。

新しいことには価値があり、しかも次々と新しいものを出せばさらによいと思われがちである。しかしどんなによいものでも、実際に使われるにつれて評価が高まる方が作り手としては手応えがある。そうなるためにも、設計(デザイン)のよさの中にだれでも手を入れやすい合理的な作り方や、問題の特定に役立つインタフェースを作り込むようなメンテナンス志向の考え方を加えておきたい。想定外の問題があるという謙虚さと準備が、後々に使う上での安心感を支えてくれるからである。

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