デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2010.11.22レーザーカッターとパーソナルファブリケーション

最近、レーザーカッターを使って部品を作る機会があり、コンピュータの出力がそのままモノの形になる便利さを実感している。レーザーカッターとは、レーザー光で材料を焼き切る機械で、紙、アクリル、木、革、布など安全に燃やせる素材ならばほぼ何でも加工できる。精度は非常に高く、レーザー光の幅よりも大きければどのような形でもレーザープリンター並みの精度で切ることができる。3次元プリンタのように立体を作ることはできないが、光の強さを制御して厚み方向にレリーフ状の彫刻をすることもできる。小型のレーザーカッターは机に乗る大きさで音もそれほど出ないため、屋外に排煙できれば本体をコンピュータの横に置いても大丈夫である。安全のための監視をするという目的もあるが、レーザーの光が瞬きながら材料を切っていく様子は眺めていて見飽きないものがある。

レーザーカッターの面白い使い方は多くの方々が開拓しているが、何よりも役立つのは、これまで手間がかかりすぎて作れなかったものをできるようにすることだろう。たとえばノイズアーキテクツの豊田啓介氏は、モーフィングファニチャーという、ゆるやかに断面形状が変わっていく長いベンチを作っている。実はこのベンチの形は、パントンチェアやチューリップチェア、ジグザグチェアなどよく知られた椅子の断面形状をモーフィングでつないで作っている。形を作ること自体は曲面の作業に適したCADを選べばこれまでも可能だったが、実際に一枚一枚違う曲線の板を正確かつ大量に切り出す作業は、レーザーカッターに適している。部品点数が多いと組み立てが難しそうだが、部品を切り出すときレーザーで番号を刻印しておくことで、イケアの家具のように数字を合わせながら組み立てられるとのことである。

同じような形を大量に作るときにもレーザーカッターが役立つ。慶應義塾大学の田中浩也氏らは、切り込みのはいった木の葉のような形をしたピースをレーザーカッターで大量に作って組み合わせ、大きな構造物を組み立てている。この構造物は今年1月にNTTインターコミュニケーションセンター[ICC]でオープン・(リ)ソース・ファニチャーVer.1として展示された。そのときは来場者が自分の思う位置にピースを継ぎ足すことで、会期中に次第に形が変化していった。構造物が四角い建物ではなく、樹木やサンゴのような生物に近い形になっていくのが印象的であった。

さらにレーザーカッターならではの変わった使い方として、食べ物の加工や刻印に使おうという人たちもいる。先日、東京芸術大学で行なわれた「レーザーカッターの切りだす未来」というイベントでは、バーチャルリアリティの研究者である明治大学の福地健太郎氏が、レーザークッキングという余技で、生春巻きのライスペーパーに食べ方の手順をプリントするデモを実演した。ライスペーパーには折る箇所が矢印付きで示され、中身を置いてその通りに皮をたたんで巻くとおいしく食べられるというアイデアだった。この他にもおせんべいやマシュマロに絵を描くなど、レーザーカッターを使って食べ物に味以外の楽しみを付け加えているのを見ると新鮮である。

レーザーカッターのようなツールが普及すると、ここ数年言われてきたパーソナルファブリケーションの可能性が現実味を帯びてくる。これまでにもたとえばインクジェットプリンターが普及した結果、個人が欲しい写真を好きな大きさでプリントできるようになった。それと同じように、個人が欲しいものを好きな形で作るというのがパーソナルファブリケーションである。ただ実際のファブリケーションには加工機や場所が必要なので、コンピュータで作ったデータを持って行くとモノが作れる場所があるとよい。そこでは作り方の情報交換をしたり自分の作ったものを披露したりするという、クラフトマンシップを介した人間関係ができる可能性がある。

メディアラボのニール・ガーシェンフェルトが、パーソナルファブリケーションの具体化として上記のようなファブラボ(Fab Lab, fabrication laboratory)の構想を出したのは2002年であった。それからレーザーカッターや3次元プリンタ、また小型の組み込みコンピュータ、各種のセンサーや衣服に縫い込める導電性の糸などさまざまなものが容易に使えるようになり、ファブラボもネットワーク化しつつある。現在ファブラボは世界中に45カ所あるそうだが、日本でも今年、田中浩也氏や多摩美術大学の久保田晃弘氏が中心になってファブラボ・ジャパンを立ち上げた。そこから今後どのような個性的なものが出てくるか、期待を持って見ておきたい。

lasercutter.jpg

レーザーカッターで加工する様子
(写真提供:東京芸術大学芸術情報センター 高尾俊介氏)