デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

m.c.t.ホーム > エクスペリエンスマガジン > デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司 > ストーリーを体験するデザイン

2011.11.28ストーリーを体験するデザイン

香港理工大学スクール・オブ・デザインは、広告、インテリア、ビジュアル、プロダクトなど香港らしく商業デザインを重視した学校である。その主催で先日、インタラクションデザインの会議があった。香港は中国に返還後に製造業が本土に流出し、逆に付加価値の高いサービス業が一層集まっていることもあり、今回のインタラクションデザインの会議でもサービス業との結びつきが強調されていた。

その一つが香港ディズニーランド・リゾートのセロン・スキーズ氏の基調講演であった。スキーズ氏はウォルト・ディズニー・イマジニアリング社のディレクターで、香港ディズニーランドのアトラクションやゲストエリアの計画から、建築、インテリア、照明、演出の実現までを監修する立場にある。彼が強調していたのは、ストーリーは体験を作り出すための媒介であり、ディズニーランドはストーリーに基づいて構想されているテーマパークだということであった。東京ディズニーランドでもおなじみのファンタジーランド、トゥモローランド、アドベンチャーランドなどにあるアトラクションの一つ一つが、ストーリーのある世界を体験するように作られているということである。

ディズニーランドはもともと、アニメーションを超えて実体験ができる世界を作りたいというウォルト・ディズニーの構想から始まっている。このため彼はアニメーションスタジオとは別にアーティストや物づくりの人達を集めた会社を作り、1955年のカリフォルニア州アナハイムのディズニーランド・パークのオープニングに向けて動き出す。この集団がイマジニアリングで、その後も新しいアトラクションを作りつづけ、新設したテーマパークにはオープニング後も現地に拠点を置く形で大きくなった。現在同社には、脚本家、アートディレクター、ショー・プロデューサー、イラストレーター、コンセプトアーティスト、ライド(乗り物)デザイナー、モデリング、ライティング、コンピュータアニメーション、建築など、140を超える職種のイマジニア達がいる。彼らがディズニーランドの新しいショーを作り出しているのである。

ウォルト・ディズニーが作った最初のディズニーランドにどのようなアトラクションがあったのかは、有馬哲夫氏の「ディズニーランドの秘密」に詳しいが、そこは当初からストーリーに基づくことで他の遊園地とは一線を画していた。この場合のストーリーはダンボのようなディズニーの映画の場合もあれば、メインストリートUSA(東京ディズニーランドではワールドバザール)のように古き良きアメリカの田舎町の設定という場合もある。映画のストーリーの場合、もとの映画を知っていれば間違いなく楽しめる。また古いアメリカの田舎町という設定もその時代のアメリカ人でなければ実際に住んだことはないが、すでに西部劇などを通して我々にもどこか見覚えがあるものになっている。いづれの場合もストーリーを受け入れる素地は先に世の中に広まっていて、アトラクションの仕掛けやユーモアを自然に楽しめるようにする強力な媒介として働いているわけである。ただ時代が変われば共有できるストーリーも自ずと変わるので、ディズニーランドにも後にはスペースマウンテンのような現代的なスリルを加えたアトラクションが加わる。それでも一つ一つの乗り物には、その時代に即したストーリーがあることは変わらない。

訪問者の体験を地域に合うものにしていくこともイマジニアリングの役割である。例えばアジアでは写真撮影が大事な要素なので、香港ディズニーランドでは一緒に写真が撮りやすいように常にキャラクターがいる場所を作っている。また新しいもの好きな性格を反映して、年4回アトラクションを変えており、関連グッズも東京ディズニーランドより多く開発しているそうである。

そしてイマジニアリングは今年ハワイにオープンしたアウラニ・ディズニー・リゾートのデザインも担当した。ここはディズニーのテーマパークと一体化していない初めてのリゾートである。スキーズ氏によれば、テーマパークでのストーリーを体験するという方法はもちろんここでも活かされているそうなので、イマジニアリングがどのようにハワイの文化や自然を取り入れたリゾートにしたのか興味のあるところである。ウォルト・ディズニーが成功させたストーリーによる共感という手法を大事にしながらも、新しい展開を探す彼らの今後の仕事に注目したい。

icid2011-disney-resort_mini.PNG

ハワイにオープンした新しいリゾートについて説明するウォルト・ディズニー・イマジニアリング社のセロン・スキーズ氏。