デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2012.01.31ナチュラル・インタラクション

2011年に話題になったコンシューマ向けデジタル機器の中で、マイクロソフトのキネクト(Kinect for Xbox 360)は一番インパクトがあったものの一つだろう。ゲームプレーヤーの全身を3Dでセンシングすることで、スポーツやダンスなどの動きを自然にキャプチャーできる。ゲーム機側では画像処理によって身体や手足の位置を把握しているので、キャラクターにポーズを取らせたり、ジェスチャーを認識したりというような高度な応用もできるようになっている。

KinectはもともとXbox 360の入力デバイスだが、発売後すぐにハッカー達が解析し、早い段階でパソコンにも接続できるようになった。その勢いに後押しされるように、Kinectのセンサ技術を開発したPrimeSense社らのOpenNI(NIはナチュラル・インタラクション)がインタフェースを公開し、さらにマイクロソフト自身もベータ版ながらWindows用の開発環境を提供することになった。Kinectは2011年中に1800万台も売れたそうだが、その中にはゲーム機本体を持たず、パソコンに接続するために購入した人も少なからずいるようである。パソコンではモーションキャプチャでキャラクターを動かすMikuMikuDanceなどが人気で、ユーザが振り付けしたビデオがYoutubeにたくさん投稿されている。

そしてマイクロソフトは今年2月に、正式にPCに対応したKinect for Windowsを発売する予定である。ハードウエアを購入すれば追加料金なしでソフトウエアを流通できるとのことで、マイクロソフトが世界中の開発者のイノベーションに期待する意気込みが感じられる。Kinect for Windowsの開発チームは、全身を使ったインタフェースで自閉症の子供の教育を支援したり、身体を動かすリハビリテーションに活用したり、手術中の医師が手をふれずにジェスチャーで診断画像を呼び出したりするなど、教育、健康、トレーニングなどへの応用の可能性を挙げている。

パソコンからKinectをセンサとして使って驚くのは精度の高さである。センサから2mほど離れた位置で数センチの奥行きの違いを区別する精度があり、例えば空間内にある物に前後どちらから手を伸ばしたかもわかるほどである。Kinectのセンサ技術を開発したPrimeSense社の特許を見ると、0.1mm以下の小さなレンズを多数並べた透過面にLEDの光を通すことで、半ば不規則なドット状の光のパターンを作り出すようになっている。そのパターンを対象に当てると、深さ方向の距離の違いがドットの横方向のずれとして現れるので、参照パターンと比較して奥行きを計算するということである。もともといろいろなパターンの光を当ててリモートで物体の3D形状を計測する技術は知られていたのだが、Kinectはそれを一種類のパターンだけで精度よく検出できるようにしている。このあたりの数学的なアイディアと製造技術の進歩、ハードウエア化された画像処理チップのスピードが、低価格なデバイスの開発に成功した理由のようである。

PrimiseSense社は今年1月のCESで、リモコンのかわりに手のジェスチャーでコントロールするスマートTVのデモを披露した。人がテレビの前に座るとまず顔認識で誰かを特定し、その人に合わせたチャンネルの選択画面を出す。手を左右に動かすとチャンネルが次々と現れるので、見たいチャンネルのところで手を握ると決定できる。ちょうどタッチパッドに表示されているアイコンを指でスクロールする感じだが、離れていても画面をジェスチャーで自在に操れるのがSF的である。また奥行き方向の手の動きもセンシングしているので、手を握って引き寄せれば観ている映画が一時停止し、押し出せばまた再生が始まるというような、タッチパッドにはない三次元的なジェスチャーもできる。

自然なユーザインタフェースとしてもう一つの興味深い応用の方向は、Kinectがパソコンの先にあるネットワークへの入口となり、コミュニケーション・デバイスとして活用されることである。すでにXbox Liveでサービスが始まっているAvatar Kinectでは、顔認識を応用して眉や口の動きを検出し、ネット上で他のユーザと会っているアバターに自分と同じ表情をさせることができる。今後、話し手のいる方向を検出できる組み込みマイクと合わせて、より自由に動いている人の位置や姿勢、表情をネットワークで伝えるような機能も出てくるだろう。Kinectが生まれるもとになった画像認識技術の進歩によって、今後のインタフェースやネットワーク上のコミュニケーションがより自然な形に近づいていく進化を見ておきたい。


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CES2012でPrimeSenseのスマートTVをデモするCEOのイノン・ベラチャ氏。