デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2012.03.22意味を伝えるための瞬き

映画のショットを観察すると、視覚的に引きつける工夫が見える時がある。例えば黒澤明の「七人の侍」では、村に突入した野武士と戦っていた侍が、鉄砲の音を聞いて急ぎそちらに駆けつける場面がある。最初のショットで侍は鉄砲の音の方角を見定めて画面の右方向に走り出す。次のショットでは場所が進んでおり、走って来た侍は左方向に向きを変える。次のショットは侍が通り過ぎる形で後ろから見ており、道なりに左方向から右方向へと曲がる。最後のショットは、再び画面の右側を向いて侍が立ち止る。この間は10秒ほどだが、侍は画面の中で大きく一周するように動き続けるので、観客は目が離せない。

駆けつけた時にはすでに味方の侍は鉄砲に当たって倒れており、担がれて画面に入ってくる。意味的にはここで既に次の場面に入っているのだが、その前に一旦立ち止まり画面も動かないので、観客は一息つく間がある。そこまでは一本の道を走るのだが、カメラの場所と向きを変えて画面に動きを作り、駆けつける姿を印象づけているので、画面に引っ張られて注視状態が続くのである。そして意識して何度か見ると、画面の動きが止まるタイミングで瞬きをしたくなるのに気づく。

我々の目は視覚的なまとまりを受け取るときに注視し、内容の区切りがついたところで瞬きをする。上の場面では、うまく話の区切りと画面が合っているわけである。映画編集者でサウンドデザイナーでもあるウォルター・マーチは瞬きを映画の編集に結びつけて、「映画の中では一つのショットが一つの思考に相当し、それを分離させて区別するためのカットが瞬きに相当する」と述べている。そして彼は、観客が瞬くポイントが編集上のカット・ポイントに適しているという法則を作っている。編集で物語がつながる必要があるのはもちろんだが、観客の思考の流れと同期して視覚的な区切りをつけることも必要なのである。

映画の場合はショットの切れ目で瞬きが起きると考えてよいのだろうか。東京大学の中野珠実氏(現・大阪大学)らは、14人の被験者に2種類のビデオを見せて、瞬きをするタイミングを計測している。一つのビデオはコメディのMr.ビーンで、ストーリーは面白く目が離せない。もう一つはエーゲ海の風景のバックグラウンドビデオで、特にストーリーはない。計測の結果、Mr.ビーンでは、一人が繰り返し見たときのデータでも、複数の人が見たときのデータでも、瞬くタイミングはかなり似ていることがわかった。バックグラウンドビデオでは同期はほとんどなかったので、瞬きが同期するにはストーリーが必要だといえる。さらにMr.ビーンで、ショットの切れ目の直後に起きた瞬きを取り除くと同期が減ったので、確かにショットの切れ目が瞬きのトリガーになっている。しかしショットの切れ目の直後の瞬きを取り除いたとしても、まだ同期している瞬きがある。この種類の瞬きはストーリーの内容に同期していると考えられる。実際、ショットの切れ目の直後でない瞬きをストーリーと照らし合わせてみると、登場人物の動きがなくなったところや、車の動きに予測がつくときなどに起こりやすいとのことである。ちなみにハリーポッターの朗読とも比較しているのだが、ストーリーがあっても視覚的な刺激のない朗読では瞬きは同期しなかったそうである。

ウォルター・マーチがショットの区切りと瞬きの関係に思い至ったのは、ジョン・ハワードのインタビュー記事を見たためだという。ジョン・ハワードは映画監督で脚本も書き、出演もするという、ウォルター・マーチに劣らず多才な人である。そのジョン・ハワードはインタビューの中で簡単なデモをしている。「向こうのランプを見て、次に私を見て。もう一度ランプをみて。今度は私を見て。2回目に何が起こったかわかる?瞬きをしているんだ。私からランプに目を移すとき、間にあるものはもうわかっていて見る必要がないから、頭の中でカットしているんだ」。つまり途中の要らないものを瞬きがカットしているということである。我々は連続的に世界を見ているようでいて、意外に視覚の入口で必要なものとそうでないものとを仕分けているようである。

音声対話やナビゲーションのような時間依存のインタラクションが、これからますます増えると予想される。そのとき、これまでと同じく空間的な構造化も必要だが、それに加えて相手が意味を受け取りやすいように時間軸上の分節化をする必要が大きくなってくるだろう。瞬きなどの相手の反応を見ながら分節化して伝えるという観点が、時間軸をベースにしたインタラクションで今後重要になりそうである。


ウォルター・マーチ「映画の瞬き」、フィルムアート社 (2008)

Tamami Nakano et al., Synchronization of spontaneous eyeblinks while viewing video stories, Proceedings of the Royal Society B, Vol. 276, No. 1673 pp. 3635-3644 (2009)

Robert Emmet Long (ed.), John Huston Interviews, University Press of Mississippi (2001)

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「七人の侍」のショット。1から4で武士が走り、4で一旦立ち止まる。5で次の場面に入る前に瞬きをするタイミングがある。