デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

m.c.t.ホーム > エクスペリエンスマガジン > デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司 > ゲームエンジンの役割

2012.09.10ゲームエンジンの役割

最近、スマートフォンやiPadで動くゲームにも、映画かと思うほど高精細なグラフィクスを使ったものが出てきた。iPad向けではインフィニティ・ブレードというアクションRPGが有名だが、鈍く光る鎧の質感や、建物や岩などが風化したように見せる汚しもきれいに表現されている。そしてシーンの描写の美しさがゲームの雰囲気を盛り上げている。

インフィニティ・ブレードを作るのに使われているのは、アンリアル(Unreal)というゲームエンジンである。Unrealはエピック・ゲームズ社が1998年にリリースした同名のゲームのエンジンとして始まった。その後、他社にもライセンス提供されるようになり、現在一番使われているゲームエンジンと言われる。ゲームエンジンとは、ゲームに必要なグラフィックスの機能やキャラクターの動きを制御する機能などを集めたソフトウエアである。Unrealの場合は衝突などの物理シミュレーションやイベントのデザイン、アニメーションなど、様々な機能が集められている。

先日、横浜でコンピューターエンターテイメント・デベロッパーズカンファレンス(CEDEC)があり、エピック・ゲームズ社のティム・スウィーニー氏が講演した。前半は次期バージョンのUnreal4の新機能の紹介で、特に複雑なシーンのライティングがリアルタイムで行えるという点はかなりインパクトがあった。光沢のある表面に周囲の景色が映り込むようなレンダリングや、一度透過してから拡散して出てくるような光のシミュレーションがリアルタイムでできるようになる。彼らは次の5年間でGPUの性能が1テラFLOPSを越すと予想しており、そのレベルのPCでは十分実行可能な範囲だとしている。それにしても全部のピクセルがリアルタイムでレンダリングされているという事実を見ると驚きである。

スウィーニー氏の講演の後半はゲーム市場の展望であったが、今後のプラットフォームはオンラインを含むPC、スマートフォンなどのモバイル、XBox360やPlayStationなどのコンソールの3つのカテゴリーに集約されて行くという。そしてすでに始まっている傾向であるが、ゲーム自体は無料で提供し、アイテムの購入やソーシャルネットとの連携にビジネスモデルを見いだすフリー・ツゥ・プレイ(F2P)のあり方が今後も強まって行く。さらにゲーム分野全体でデフラグメンテーションが起こり、プラットフォーム別に分裂した状態から共通性・互換性のある状態になっていくという。これはPCとモバイルで同じゲームが動くようになり、プラットフォームの垣根が越えられるということである。そのためUnrealもモバイルとウェブの対応を強化していくということであった。興味深いのはFlashとの連携を続けて行くという発言で、PCでの実行のためにFlashは有用な環境であり、また仮にFlashがある時点でなくなったとしても、ブラウザでUnrealエンジンを実行することが可能になるだろうと述べていた。その他にもスウィーニー氏は、GPSや方位センサ、Kinect、音声認識のSiriなどを将来性のある技術として挙げた。また将来のPCオンラインゲームへの投資として、中国のインスタントメッセンジャー・サービスの企業であるTencentとの提携にも触れていた。

ゲーム市場のデフラグメンテーションが起こり、PC向けのゲームもスマートフォン向けのゲームも同じゲームエンジンから作られるようになったときに、ゲーム制作者側がどのように差別化を図ればよいのかは興味のある問題である。大規模予算のゲーム、いわゆるトリプルAタイトルは今でも制作に2千万ドルもかかっているが、さらに次世代では3千~5千万ドルにもなるといわれる。このようなスケールのものと小規模のものを一緒にすることはできないが、開発者がみな同じようなツールを使い、しかもそのツール自体が巨大で中身を理解できなくなったとき、ゲームの作り方自体がだれでも似てきてしまって結果に差がなくなってしまうのではないかという指摘もある。今後、ユニークなゲームが出てきたとき、それがゲームエンジンやその他の制作支援ツールを使って作られたのか、あるいは一般化してしまったツールに頼らず独自の技術から出てきたのかは、注意して見ておくべき点であるといえるだろう。ソーシャルゲームなどビジネスモデルの変化とともに、今後のゲームの開発のされ方の変化にも注目しておきたい。

Unreal4_elemental2.png


Unreal4のデモ映像
http://www.youtube.com/watch?v=dD9CPqSKjTU