デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

m.c.t.ホーム > エクスペリエンスマガジン > デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司 > グループのためのペルソナ

2012.12.05グループのためのペルソナ

デザインのためのペルソナは、仮想的な人物像を想定して、仕事や生活の目標、興味、行動などを記述したものである。現実に行動する様子を思い浮かべることができるように、ペルソナには名前や顔写真なども含めて人間性を持たせた形で人物像を描くことが標準的になっている。ユーザという一般形でなく具体的な人物像を持つこととユーザ中心のデザインとの相性のよさから、すでにペルソナという言葉は広く認識されるようになったといえる。

しかし実際にペルソナがどう有効なのかは、まだ分析が必要なようである。IBMアルマデン研究所のタラ・マシューズとスティーヴ・ウィッタカー(現在はカリフォルニア大学サンタクルーズ校)らは、社内でユーザ中心のデザインを推進する立場にあるデザイナー12名と研究者2名から聞き取り調査を行った。そしてデザイナーはペルソナをデザイン作業の中よりも、コミュニケーションのために使っているという結果を出している。例えば「そのような配慮は必要ない」という技術者に対して「あなたには必要なくても、このような人のために必要になります」というように、デザインチーム以外とのコミュニケーションでユーザに目を向けさせるためにペルソナを使っているということである。

彼らの調査結果でデザイナーに共通する声は、やはり第一に重視すべきは実際のユーザであり、直接インタビューするのに越したことはないという意見である。ペルソナに人間性を持たせるためにライフスタイルなどを記述することについても、デザインに不必要な、あるいは誤った制約条件を持ち込むことになりかねないという見方もある。逆に多くのデザイナーが現実のユーザを直接反映するような仕事の責務や技能、教育のバックグラウンド、使っているソフトウエアなどの記述を有用だとしている。彼らの調査からいえるバランスの取れたペルソナの使い方は、ユーザに直接触れる環境を持った上でそこに立ち返れるようなデータを使うこと、コミュニケーションのために有効な面を活用することである。

この調査と平行して、彼らは個人ペルソナに対するコラボレーション・ペルソナという考え方を提示している。もともと彼らもペルソナを使っていたが、グループウエアのデザインをする上でいくつかの問題に行き当たった。一つは複数の個人ペルソナを選んで組み合わせただけでは、グループでの役割分担を表せないということである。またグループには固有のワークスタイルがある。途中まで進んだ作業をどこかに置いて次の人がそこから取り出して仕事を完了させるようなプール型なのか、グループリーダーが整理をして一つの成果を別の人に渡すような集中管理型なのか、比較的独立に仕事をしていくコミュンケーション型なのか、といったグループウエアにとって本質的な点は、個別のペルソナを集めただけでは表せない。そこで彼らは、いろいろな立場にいる人から聞き取りを行い、コラボレーション・ペルソナを用意した。コラボレーション・ペルソナの項目は、グループと各メンバーの目的、グループのタスク、メンバーの役割分担、グループのワークスタイルなどである。ワークスタイルには、仕事の流れや決定の方法が書かれている。また、グループウエアが定着しておらず新しく参加したメンバーが情報に追いつくのに時間がかかるなど、使っているソフトウエアの問題についても記述している。このコラボレーション・ペルソナをデザイナーに評価してもらったところ、個人ペルソナよりも社内のソーシャルネットワーキングについて考えやすくなったという。

しかし彼らの研究でも、グループの目標と個人の目標とのずれや、グループ内の緊張関係など、組織の力学の面を表現することはまだ課題として残っている。こういう面を扱うにはデザインという成果物を意識する立場よりも、組織自体に関心を持つ観点が必要であろう。例えば社会心理学ではグループにいるだけで個人のパフォーマンスが下がる現象をプロセス・ロスと呼び、成果が認められないかもしれないというプレッシャーや協調するために余分にかかるエネルギーに原因を求めている。またグループにいると匿名性に隠れて全力を出さなくなるという社会的手抜きが生じることも、多くの実験で確かめられている。

今後、デザインの対象が個人から社会へと広がるにつれて、こういった社会心理学的な知見を持つことがデザイナーにも求められるようになるだろう。ペルソナをコミュニケーションツールとして活用していく上で、デザイナーが外部に対して説明する方向とともに、デザイナー自身がペルソナを通して他分野の知見を吸収するという方向も等しく重要になりそうである。


Tara Matthews, Steve Whittaker, Thomas Moran, Sandra Yuen, Collaboration Personas: A New Approach to Designing Workplace Collaboration Tools, CHI'11, pp.2247-2256, (2011)

Tara Matthews, Tejinder Judge, Stephen Whittaker, How Do Designers and User Experience Professionals Actually Perceive and Use Personas?, pp.1219-1228, CHI'12, (2012)


ip2_cp.png


個人ペルソナコラボレーションペルソナ(一部抜粋)。