“本能”から人間を読み解く - 佐藤武史

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2013.09.04人間の直感力が高まる瞬間

創造力研究の第一人者であるマイケル=マハルコ氏は、直線的発想と直感的発想の両者を武器として持ちながらアイデアを創造していくとよいと語っています。

直線的発想とは発想のきっかけに従って強制的に行う発想法。例えば、「水は水道の蛇口から出る」という発想を逆転して「水を水道の蛇口に入れる」とどうなるか、という逆転の発想法。例えば、ナイフを形態(小型・大型・鋭い・軽い・・)と色(銀・白・マダラ模様・・)などと特徴ごとに分解した後に、それら特徴の組み合わせ(白く鋭いナイフ)を行っていく発想法。また例えば、雑誌をランダムに選び、自分の課題との関係を強制的に見つけていくという発想法。このように、アイデアを出すに向け、何かしらの"道しるべ"を利用しながら強制的に発想する方法が直線的発想です。

マハルコ氏は同時に、直感的発想を大事にしています。これは、「直観力を高める方法」とも言い換えられます。別の言い方をすると、「どうすれば、アイデアをひらめきやすい脳になるか」という問いへの答え、となります。

今回のエクスペリエンスマガジンでは、直観力が高まる状態について生物学的な視点で解釈しながら、マハルコ氏の直観力向上の方法論をご紹介したいと思います。もし、あなたがご自身のヒラメキの力をもう少し高めたいと思われているならば、ちょっとしたヒントとなれるかもしれません。


直観力の高まりを理解するためには、まず、顕在意識と潜在意識の話から始めなければなりません。

脳内で処理される情報のほとんどは我々が意識されないままに起こり(潜在意識)、その一部だけが意識に上ってきます(顕在意識)。例えば、感情は潜在意識のレベルから発せられます。意識して笑おうと思って笑えるものではないし、怒りたくないと思っても腹を立ててしまうものです。感情は潜在意識のレベルから発せられた後で、顕在意識に届く形です。感情と同様に、潜在意識のレベルでは次なるアクションをどうすればいいか、そのような意思決定が随時なされています。何気なく頭をポリポリと掻いてしまうことがあるし、階段を上る時にどの筋肉をどのように使用しながら上がるかなどを意識することもないでしょう。すなわち、潜在意識の中では僕たちが気づかないレベルで、アイデア発想(≒意思決定)が頻繁になされている訳です。

ただし、これらの意思決定(アイデア)は顕在意識のフィルターによって曲げられてしまうことがあります。顕在意識では、俯瞰的・客観的・ロジカルに思考を行うことが可能であり、何かしらのアイデアが浮かんだとしても、「これはあり得ない」と思考して、そのアイデアを破棄してしまう可能性があるということです。

今回の「直観力を高める」とは、顕在意識のフィルターを弱め、潜在意識レベルでのアイデア発想をサポートすることと同義になります。


顕在意識のフィルターを弱めるためには大きく2つの道があります。人的・意図的にフィルターを弱くする方法と、フィルターが弱まるタイミングを利用する方法。これらはまさに、マハルコ氏の著作に直観力を高める方法として紹介されている内容でもあります。順を追って説明していきます。

まずは、人的・意図的にフィルターを弱める方法から。ここには大きく分けて、4つの方法があります。

まず1つ目は、心身をリラックスさせるというもの。ヨガや座禅にあるように、心身がリラックスした状態ではいつもの自分を超えたアイデアが生まれやすくなります。一つの考えにとらわれたり緊張で体が固くなっている状態をほぐす。深呼吸したり、緩く体を動かしたりすることも有効です。リラックスしている間に、ふと、アイデアが浮かんでくる。

2つ目は、逆に、脳を疲労させるという方法。フィルターが機能しなくなるほどの情報を処理させると、フィルターに穴が開いてしまうというもの。例えば、かなり素早くアイデアを大量に出し続ける。そうすると、フィルターにかからないアイデアがふと、浮かんできたりします。

3つ目は非現実的な妄想をする、というもの。人間は、内面(頭の中)のイメージに集中すると、顕在意識のフィルターがはずれやすい特性を持っています。妄想しているときって、イメージが半ば勝手に沸いてきますよね?そしてさらに、非現実的なテーマで、フィルターを使用する必要がない状態にしておく。例えば、住宅のアイデアを考える際、「人類が火星でも生活できるようになったら」などを妄想する、など。

4つ目は、雑談。他者と楽しく冗談を交えながらおしゃべりをしているときは、心の構え(フィルター)が弱くなっているものです。ふとした立ち話や、お酒の場でアイデアが浮かんでくるのも、ここに属します。

人的・意図的にフィルターを弱める他の方法として、イラストを描く方法がマハルコ氏の著作で紹介されています。何でもよいからイラストを描いてみる。イラストは言葉を使わない思考法であり、ロジカルでない情報、つまり、フィルターにかからない情報が生まれやすい。


次に、フィルターが弱まるタイミングを利用する方法をご紹介します。これは、マハルコ氏の著作には「3つのB」という言葉で表現されています。3つのBとは、Bus(バス(移動中))、Bed(睡眠中・睡眠の前後)、Bath(トイレやお風呂)のこと。

乗り物に乗っている間、もしくは、歩きながら、ふと気が緩む瞬間。または、寝る前、もしくは、起きた直後のまどろみ。もしくは、夢の中。または、トイレで一息ついている瞬間、お風呂でくつろいでいる時。そのようなときに、顕在意識のフィルターが弱まるという訳です。


アイデア発想に直観力を活かす上で大事なことは、「課題のインストール」と「培養(インキュベーション)」であるとマハルコ氏は説いています。課題についてしっかりと自分の脳にインストールした上で、熟成期間(=数秒~数年とレンジは広い)を経て、後は、潜在意識からアイデアが湧いてくるのを「待つ」。もちろん、顕在意識のフィルターを弱めた状態で。

課題を潜在意識にインストールするには、「徹底的に悩む」のも一つの手です。机に座りながら徹底的に悩み、立ち上がった瞬間に(=リラックスした瞬間)にアイデアが出てくる方もいますが、それはまさに、この「課題のインストール→フィルターが弱まる」という流れを象徴しています。または、課題を言葉にして何回もつぶやく(寝る前などが特に有効)、という方法もあります。


今日の話は、ご自身がアイデア創出する際にも利用いただけるし、ワークショップなどを主催する際に、参加者に対する問いの投げ方としてもご利用いただけるかと思います。

最後に、我々は「アイデアが"浮かんでくる"」という表現(メタファー)を用います。"浮かんでくる"とは、地上からは見えづらい水の中からアイデアが泡のようにぷかっと浮かんでくるイメージ。すなわちアイデアが、我々からしても受け身で、待っていなければならないシロモノであることを表現しています。それをどのような態度で待っていることがよいか、それが今回のお話した内容であるとも言えます。