2007.08.01iPhoneで見えた、アップルのマーケティングとウェブ戦略
ニュースは日本にも伝えられたので、アメリカでのiPhone発売騒ぎはよくご存知だろう。 6月29日に発売されたアップルの新しい携帯電話である。仕事のためにiPhoneを入手することになり、 私もこの騒ぎに参加したのだが、新製品を心待ちにする一消費者にとって、 アップルのマーケティング戦略とウェブ戦略がいかに効果的に組まれているかを、とことん味わった気分である。
まずは、消費者の関心をくすぐり続ける情報のリリースの方法がたくみである。 iPhoneが発表されたのは今年1月。アップル・ ファンや開発者が集まるマックワールドで、スティーブ・ジョブズ自身がプレゼンテーションをしてみせたのが最初だった。 マックワールドはここ数年新製品発表の場になっていて、今年はどんな驚きのデバイスが出るのかと、観衆の期待感は強い。 そこにジョブズは、指でタッチパネルを操作するという、 これまで見たことがないインターフェイスを軽やかに披露してみなを沸かせたのである。ジョブズは、 実際の発売は6月とその時語った。
だが、その後数ヶ月。一部のアップル・ ファンの間ではいろいろなうわさが飛び交うものの、アップルからは何の発表もない状態が続く。同社のウェブサイトには、 ジョブズが行ったプレゼンテーションのビデオがアップされ、基本的な操作を解説する動画もあるが、それ以上の情報の更新は何もない。 アップル特有の秘密主義的情報戦略である。大切な情報がなかなかリリースされないことに、実はアップル・ ユーザはかなり慣れているのだ。
ところが6月に入ってから、ガラガラと事態が動き出すのである。まず、 第2週目に発売日を29日と発表。その後2週間の間に、断続的にiPhoneのサイトを更新して、 新しく制作し直した動画を掲載し、iPhoneの機能をていねいに解説。さらに電池の持ち時間や、 他社競合製品と性能を比較した分析表まで掲載して、今まで隠されていたiPhoneの正体を明らかにしていくのだ。
最後の追い込みをかけたのは、発売の1週間前に入ってからである。 料金プランやiTunesでアクティベーションをするといった詳細が発表されたのだ。 携帯電話だというのに、こうした肝心の情報がいつまでも明らかにされないなど普通なら許されないことだろうが、 アップルだからこそ、そしてiPhoneという画期的な新製品だからこそ消費者も仕方なく了解、といったところである。 いくつかのメディアで先行した製品レビューでキーボードの使いにくさが指摘されたが、 その翌日にはさっそくキーボードの使いやすさを訴えるビデオが掲載されている。舌を巻くほどの素早さである。
そんな情報操作が功を奏してiPhoneに対する関心はどんどん高まり、発売前夜には全米のアップル・ ストアとAT&Tストアに長蛇の行列ができたというわけだ。
同時に感心したのは、 アップルがウェブについてかなり進んだ感覚を持っていることだ。普通ならキャリアの店頭で行われるアクティベーションを、 iTunesを利用してユーザ独自が行うという手続きは、 実はインターネットがこれだけ普及した中ではごく当たり前のことだったのかもしれない。今までなぜ誰もやらなかったのか。 そこに気づかせたアップルの先見性はもちろんだが、これが、 携帯電話メーカーとキャリアの力関係を今後すっかり変えるきっかけになるかもしれないのは、重要なポイントだと思う。
さらに驚いたのは、iPhoneを手にしてようやく家にたどり着いた後。iPhoneサイトは当然だが、 アップルのサイトもiPhone風の画面、 つまり上下のスクロール感や流れるように変遷する画面を強調するものに変わっていたのである。今後、 アップルは指を利用したタッチスクリーンを今秋発売が予定されているラップトップにも採用するといううわさもあるのだが、 アップルは早くもその「雰囲気」の演出に力を入れているのである。
今回、この一連のプロセスを経験して痛感したのは、 アップルは自社のウェブサイトをまるでニュース・サイトのように扱っているということである。 一度作ったらしばらくは大丈夫と大きく構えている企業サイトも多いだろうが、アップルは1時間単位で更新をやるようなアプローチだ。 しかもただのブログの更新ではない。ビデオ掲載やデザイン変更まで含んだ更新だ。
もちろんiPhone発売に関しては、あらかじめ綿密に仕組んでいたことだろう。だが、 かなりアグレッシブにウェブサイトを利用して、デバイスとサービスとコンテンツ、 そしてユーザを結んでいくというアップルのやり方を再確認させられたのである。






