2009.07.31多様化するコンピュータのフォーム・ファクター
コンピュータの「フォーム・ファクター」をじっくりと考えなければならない時期にきている。
フォーム・ファクターとは、つまりは形態のことだが、その形態はそもそも背後にある機能やビジネスモデル、理由といったものがあってこそそうなっているのだという考えに基づいたものだ。
たとえば、同じ携帯電話と言ってもいろいろな形態がある。それぞれの形態は、単に「かっこいいデザイン」をめざした結果かもしれないが、本来ならば「どんな人が」「どんな場面で」「どのようにして」使うのかといったことをじっくり検討した上で生まれたものだろう。開いて使うクラムシェルか、あるいはストレートな一本型か、あるいは横にしてキーボードを打ちやすくしたもの、または小さなスクリーンをクルリと回してワンセグを見られるようにしたものなどがあるだろう。すべて、電話という機能のまわりに、ある特定のユーザーが求める使い勝手を付随させた結果だ。
形態の多様さに比べると、コンピュータのフォーム・ファクターはこれまでかなり限られたものでしかなかった。デスクトップとラップトップ(ノートブック型)だけ。これに最近ネットブックというラップトップのミニチュア版が出てきたという感じだ。もちろんそれぞれのメーカーによって使い勝手やデザインが異なっていたが、それ自体で独立したフォームフ・ファクターを形成するまでにはなっていなかったと思う。
ところが最近、「これからはいろいろな形のコンピュータが使われるようになる」と感じられる動きが多くなっている。そのひとつが、アップルのタブレット型PC発売のうわさである。
アップルのタブレットは、いわば巨大なiPhoneのような形態だとされている。スクリーンは10インチ。タッチスクリーンで操作できるが、キーボードを接続して立てて使えば、デスクトップにもなるというものだ。早くて今年秋にも発表される予定だという。
すでにiPhoneは、ただの携帯電話という以上の威力を見せつけてきた。日本での人気はそれほどでもないが、アメリカでは旧型iPhoneが99ドルで販売されるようになってから、急速にユーザー数が増えている。何でも6月末までの四半期だけで520万台も売り上げたのだ。人気の理由は、インターネットに接続してフルブラウザーを利用したり、地図を見られることである。ほぼコンピュータと同じような使い勝手ができるのだ。重いコンピュータを持ち運ばなくても、そして小さな携帯電話の使いにくいブラウザーで妥協しなくても、けっこう仕事にも使えるのだ。
もしこのiPhoneがB5版のノートくらいの大きさになれば、何ができるか。ゲームの迫力も増すだろうし、映画も楽々に見られる。本も読めるだろう。学生ならば教科書として使える。
この大きさのデバイスということで言えば、タブレット版のPCを出してきたメーカーがすでに何社かあったものの、アプリケーションやサービスの点でのフォローアップがなかった。だから「平たいコンピュータ」くらいの認知度しか得られなかった。ところが、iPhoneアップなどiPhoneならではの開発をまわりにはべらせるのに成功したアップルがタブレットを出すとなれば、そのアプローチも認知度もすっかり変わるはずだ。
オンラインショップのアマゾンは、電子ブック「キンドル」を発売してユーザー数を増やしているが、先頃「キンドルDX」という名前のやはりB5くらいの大きさの新型キンドルを市場に投入した。キンドルはPC とは違って「本を読むこと」に特化させた機能しかない。つまり、ブラウザーや動画などの機能はないか不完全だが、まるで印刷された本のように読みやすい文字を読むということでは、かなり先端的なデバイスだ。コンピュータのスクリーンとは異なった電子インク技術を使っているため、電池の持ちもかなりよい。
アップルがタブレット版を出せばアマゾンに打撃を与えるのではないかとされているのだが、読書デバイスという特殊な存在を支えるのはサービスか、それとも使い勝手のよさか。ユーザーが今後どう判断していくのかが興味深いところだ。
さらに、最近よく見かけるのが、キッチンPCの類いである。キッチンに小さなコンピュータが進出するという未来像はかなり昔からあって、それは壁掛け型であったり写真立て風であったりするのだが、それがいよいよ現実になってきたということだ。
キッチンPCを最近打ち出しているのは、電力会社や節電技術開発会社である。電力の供給網がスマート・グリッド化されて利用状況が個々の家庭でもモニターできるようになる。その時にキッチンPCが電気使用量をモニターしたり、家庭の電気機器をコントロールするのに一役買うのだ。もちろん、レシピ検索やら電子メールやらの機能をそれに盛り込むことは簡単で、そうなるとコンピュータが仕事やエンターテインメント領域だけでなく、キッチン領域にも踏み込んでくる。
それ以外にも、玄関で訪問者とやりとりするためのPC、特定のブランドのマーケティングに使われるネットブックなど、あれこれのフォーム・ファクターを見かける。これはすべて、コンピュータを製造することがかなり安価にできるようになった結果である。コンピュータがユビキタスに配置されるに従って、何もひとつのかたちに縛られることなく、それぞれの機能に最適なフォームを選べばいいのだ。
こうなってくると、形態だけの問題ではない。誰がどこに配置されたどんなデバイスを通じて発信するのか。使い手だけでなく、コンテンツ・プロバイダーやニュース発信者、マーケッターなどが、それぞれのユーザーの状況に合わせて発信内容やその形態を細やかに変えていくという手腕が試されるようになる。
フォーム・ファクターは、デバイスの形だけでない、さまざまな再編成を起こすのである。




