2010.02.05ひとつのデバイスが、メディア業界を再編する可能性について
アップルがとうとう、うわさのタブレット型コンピュータ「iPad 」を発表した。アメリカではアップルのスマートフォンiPhoneの人気が絶大なため、このiPadも同様のモメンタムを得れば、さまざまな既存業界をひっくり返す可能性がある。
まず、かなり立場があやしくなるのがネットブックだろう。アップルのスティーブ・ジョブズは、iPadの発表会でもネットブックをコケにし、「ネットブックはただのチープなノートPCで、まともにできることは何もない」と言い放った。
iPadの魅力は、軽く見やすいこと。iPhoneと同じOSを用いているので、コンピュータほどには種々のアプリケーションが動くわけではない。たとえば、画像や音楽を編集したりするのは無理だし、テキストを書くのもバーチャル・キーボードなので、ノートPCほどにはうまくいかないだろう。
ただ、デスクに座らずにやること、たとえばウェブをブラウズしたり、音楽を聴いたり、ゲームをしたりといったことにはもってこいだ。そもそもネットブックはキーボードが小さくて入力がしにくかったが、その程度の作業で済ませられるユーザーには、iPadは魅力的な選択肢となる。
次に正面衝突するとされているのが、アマゾンやソニーが先行発売している電子ブックリーダーである。iPadでも同様に電子ブックが読めるだけでなく、アップルは音楽でやったiTunes Storeと同じことを、iPadでは書籍でやろうとしているのである。つまり、インターネットの電子ブック本屋を開いて、そこからiPad にコンテンツを直接ダウンロードしてもらおうというわけである。
アマゾンのキンドル、あるいはソニーのリーダーなどの先行する電子ブックリーダーは、電子インクという特殊なスクリーンを用いている。フィルムの間に挟まれた電子粒子をソフトウェアで制御するしくみで、まるで紙の上にインクが載っているようにはっきりと文字が見える。コンピュータのようなバックライトでピカピカするスクリーンで読書するよりは、ずっと目に優しいので読書家には大変好評なのだが、iPadは読書だけでなく、他にもいろいろ機能を搭載して万能派的なアプローチで客を奪おうとするだろう。
それでも、電子ブックに関しては、iPadでは10時間しか持たない電池が電子ブックリーダーでは2週間は軽く持つといったことや、やっぱり電子ペーパーが目に優しいことにこだわる愛好家がキンドルやソニーの電子ブックリーダーにとどまるだろう。
予想以上にインパクトを受けるだろうと思われるのは、雑誌業界だ。アメリカの雑誌は、これまでコンテンツの大部分をインターネットで公開してきたこともあって、紙媒体としての存続がかなり危ぶまれている。
生き延びるために現在議論されているのが、オンライン・コンテンツの有料化である。すでにウォールストリート・ジャーナルを傘下に治める大メディア・コングロマリットのニュース・コープが、同グループのさまざまな新聞コンテンツの有料化を発表していて、これに追従する新聞社や雑誌社は少なくないと見られている。
同時に雑誌社は、それぞれの方法でデジタル・メディア会社として生き残る方法を探ってきた。ビデオを統合したり、フラッシュを用いてアニメーションや動画を多用したりと、これまでの静的な雑誌とはかけ離れたイメージの雑誌メディアが生まれつつある。そこへタブレットというコンピュータ、それも見るのにはうってつけのデバイスが現れるのである。iPad によって、雑誌社のデジタル・メディア会社化への動きは加速化されるかもしれない。
もちろん、iPadによってテレビ局も存続方法を再考させられる。スティーブ・ジョブズはもともとiPadをインターネット・テレビのための最適なプラットフォームと想定していて、数々のテレビ局ともネゴシエーション中と伝えられる。
折しも、インターネット・テレビはHulu.comなどで大人気を誇っている。今の大学生は、もうテレビを欲しがらないと言われるほどだ。Hulu.comは、アメリカのメジャーTV局数社が共同で番組を配信するサイト。それ以外にもYouTubeはあるし、今やコンピュータがあればかなりの番組が見られるようになっているのだ。
ソファでくつろぐiPadのユーザーを、テレビの観客として取り込まないわけにはいかないとテレビ局や広告業界が考え始めるのも、時間の問題かもしれない。これまでも、テレビはインターネットと観客の時間を争ってきたが、iPadに限らずタブレット型のコンピュータがもっと出てくれば、クリックひとつでインターネット、音楽、書籍の間で観客の関心を争うという厳しい競争の時代になるのだ。
iPadが成功するかどうかはまだまだ不明だが、ひとつのデバイスがメディア業界を再編する可能性もある。そんなことを考えさせられるのである。




