2010.03.08見えてきた電子雑誌のフォーマット。「エクスペリエンス」がキーワードに。
ここ数年、インターネット上でフリー(無料)で読めるコンテンツの氾濫でビジネス・モデルが怪しくなってきた出版社だったが、ここへ来て巻き返しが起こっている感がある。その理由は、書籍のみならず、雑誌の新しいフォーマットが次々と明らかになってきたからである。
たとえば、テクノロジー雑誌の『ワイアード』が先だって披露したタブレット対応の新フォーマットをご覧いただきたい。http://www.wired.com/epicenter/2010/02/the-wired-ipad-app-a-video-demonstration/
あるいは、スポーツ雑誌として人気のある『スポーツ・イラストレイティッド』の試みを見ていただきたい。http://www.thewonderfactory.com/sportsillustratedtabletdemovimeo.html
日本でも、日経新聞がまもなく電子版を発行するが、アメリカの雑誌社はどこもアップルのiPadを含め、モバイルなコンピュータ画面で見られる迫力ある誌面作りに力を注いでいるところだ。これまで無料が当たり前のコンテンツだったが、このタブレット対応の新フォーマット版は、おそらく購読料が必要となる。つまり購読料を払ってもいいと思わせるほどの「エクスペリエンス」をそこに込めようとしているのである。
では、『ワイアード』、『スポーツ・イラストレイティッド』のタブレット版をよく見てみよう。
まずはいずれもタッチスクリーンでスクロールが可能。雑誌のページを指先で繰る感じが再現されている。コンピュータとマウスの操作ではとてもまどろっこしかった問題が、すっきりと解決されているわけだ。
1冊の雑誌の中にはいくつもの記事が掲載されているものだが、タブレット版ではそのトップページを並べ、記事一覧をざっと概覧できるつくりになっているのがいい。読みたい記事は、さらに深く読める。記事一覧をスクロールするのは横向き、記事自体に入り込むのは下向きといったような、タッチスクリーンのUIにも工夫がある。こうしたことが、これから雑誌を読むふるまいとなって定着していくのだろう。
しかし何よりも驚きは、静的なものと思っていた雑誌画面に、さまざまなメディアが統合されていることだ。写真をタップするとビデオがプレイされて、フットボール試合が再現されたりする。あるいは、車の写真に触れると360度回転して全体像が見られるようになっている。それ以外にも、どんどんズームインするとか、内部空間をナビゲーションするとか、そういったツールも統合されるはずだ。
もちろん、これまでのようにテキストのリンクをタップして、関連する記事へ飛んだりすることも可能。またSNS(ソーシャルネットワーク・サービス)にも直結していて、『スポーツ・イラストレイティッド』の場合は、気に入った写真を指でクルリと囲めば、そのまま友達と共有できるようなことも考えているようだ。
要は、その記事の焦点や読者の関心に応じたメディアをその場で提供して、雑誌エクスペリエンスをこれまでとは異なった、まったく新しいレベルへ持ち上げようというのがよくわかるのだ。
こうなってみるとおもしろいのは、これが雑誌なのかテレビなのか、そういった区別はもうつかなくなってしまうことである。もちろん、動画を流しながらしゃべり続けるアナウンサーのような存在はいないが、ビデオを観ながら見出しを読み、気になったら本文に目を通すといったように、手元にさまざまなかたちのメディアが揃っていて、その時々の気分で選ぶことができる。
雑誌の作り手としては、読者がどこで何をどんな風に見たいか、あるいはサプライズを仕掛けるにはどうすればいいのか、といったようなことに敏感にならなければ、いい雑誌は作れないということだろう。
こうしたタブレット対応のコンテンツ制作は、何も雑誌に限った未来ではない。雑誌に盛り込まれている広告にとっても、同じようなエキサイティングなエクスペリエンスを提供することが期待される。それだけではない。いずれ企業は雑誌メディアとは独立したアプリケーションなども開発することになるだろうが、そこにももちろん同様のエクスペリエンスを作り込まなければならないということだ。
新しいフォーマットには新しいエクスペリエンスがある。タブレット版の雑誌は、従来型の雑誌エクスペリエンスの長い歴史を書き換えるものになるはずだ。




