米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

m.c.t.ホーム > エクスペリエンスマガジン > 米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子 > 面倒くさがりの男性に対する「心配り」をビジネスにする

2013.09.10面倒くさがりの男性に対する「心配り」をビジネスにする

最近、ファッションのオンライン・ショップで、ちょっと変わったビジネス・モデルが出てきている。それも、メンズ・ファッションばかり。これまでにない方法でモノをどう売るかについて、ヒントになることがたくさんあるので、紹介したい。

ひとつは、会員制で毎月何かしら商品を送ってくるというモデルである。たとえば、フランク&オークというサイトがある。まず、このサイトに登録すると、身体サイズ(S~XL)とシャツのサイズを選び、どんなタイプの服が好きなのかを選ぶ(クリエイティブ、リラックス、プレッピー、クラシックなど)。そうすると、すぐにショッピングのサイトに切り替わり、その会員に合った洋服をお勧めしてくれる。

フランク&オークが扱うアイテムは、ジャケット、シャツ、パンツ、靴下など多様。そして値段は手頃だ。たとえば、パンツが40ドル、ジャケットが150ドルといったところだ。フランク&オークの会員になると、月に1回ニュースレターが届く。そこには、それぞれの会員の趣味やサイズに合ったアイテムで、しかもセールになっているものが並んでいて、会員はその中から最高5点を選んで送付してもらうことができる。実際に届いた商品に触れたり試着したりして、気に入ったものを手元に残し、要らないものは返送。手元に残したものだけ課金されるというしくみだ。送料はいずれも無料。フランク&オークは、単にオンライン・ショップだけではなくて、デザインや製造も手がけている。手頃な値段で売れるのは、そうした背景があるのだ。

もうひとつ、トランク・クラブも話題になっているメンズ・ショップだ。こちらは、フランク&オークに多少似ているが、会員に「合わせた」という部分がもっと微細に渡っている。最初の登録の際に、どんな服が好みなのかについての質問が細かい。その上、各会員にパーソナル・スタイリストがつくのだ。パーソナル・スタイリストは、登録をすませると顔写真付きですぐに「私はあなたのパーソナル・スタイリストの○○です」と表示される。スタイリストは、実際にトランク・クラブのシカゴの本社に実在する人間で、会員はそこからその彼女/彼と一緒に服を選ぶのだ。パーソナル・スタイリストは、どんなアイテムを必要としているのかとか、何か特別なイベントのために服を探しているのかといったようなことを細かく聞いてくる。それと同時に会員のフェイスブックやツイッターなどをよく勉強して、どんなことに関心のある人物なのかといった情報収集もやる。その上で、コーディネーションを考えて、ジャケット、シャツ、パンツ、ベルト、ネクタイなど、いろいろなアイテムの入ったパッケージを送ってくれるのだ。送料は無料。そしてこちらも気に入ったアイテムだけを残して、後は返送すればいい。それも無料。何度か購入して、パーソナル・スタイリストと懇意になると、試着する際にスカイプでつながりながら、似合っているかどうかなどを見てもらう会員もいるらしい。

トランク・クラブの商品は、特別に安いというわけではない。いや、定価から値引きされることの多いオンライン・ショッピングの常から言うと、セールになっていない分だけ割高だ。しかし、パーソナル・スタイリストが手取り足取りめんどうを見てくれること、そして店に出向かなくてもいろいろなアイテムを詰め合わせて送ってくれる便利さなどを考えると、お得だと言っていいだろう。普通ならそんなサービスは高級店でしかやってもらえないからだ。ここの商品は、さまざまなブランドから取り寄せており、いわばセレクト・ショップという体裁である。トランク・クラブのシカゴの本社には実際の試着室も設けていて、地元の会員ならば、ここでパーソナル・スタイリストのサービスを対面で受けることもできる。オンラインとブリック&モルタルという、これまで相容れないとされてきたビジネスをうまく合体させていると言える。

月額制でファッション・アイテムを購入するというモデルもある。ボムフェルというサイトのやり方がそれだ。ボムフェルには、3つのプランがある。1アイテムあたり最高69ドルのエッセンシャル、129ドルのプレミアム、そして199ドルのラグジャリーである。値段が高くなればなるほど、アイテムやブランドの種類が増え、選択肢が広くなる。会員には、まず何点かのアイテムをセットにしたメールが毎月届く。アイテムに目を通して、気に入ればそれを同封したパッケージを送ってもらう。気に入らないものは返送可能だ。もし、メールにあるアイテムが好きでない場合は、他のアイテムを探してもらうことも可能で、また、その月は何も欲しくないという場合は、飛ばすこともできる。何も買わなければ、もちろん課金されない。こうして、少しずつ自分のワードローブが充実していくというしくみである。

アウトフィットイージーは、もっと定期的にアイテムを送ってもらうのには便利なサービスである。毎月50ドル、100ドル、150ドルのプランがあり、コーディネートしやすいアイテムがそろっていくというしくみだ。ただし、ざっと見たところ、非常にファッショナブルな人向けではなく、ごく普通のベーシックなファッションが好みのサービス。アイテムも地味目だ。コーディネートのしやすさに重心を置いているからだろう。しかし、定期的なパッケージとは別に、「就職面接用」とか「ゴルフ用」といった特別パッケージを注文することもでき、なかなか気のきいたサービスと言える。

下着などを定期的に送ってくれるのは、マンパックスというサイト。登録会員になると、3ヶ月ごとに下着、ソックス、その他の日用品(カミソリの刃、ひげ剃りクリーム、コンドームなど)を受け取る。受け取るアイテムの基本は、登録後に注文した最初のパッケージで決定される。3ヶ月後にメールが届き、同じアイテムを送ってもいいかと問われるので、その際に変更したいのならば、アイテム数を削ったり増やしたりが簡単にできる。また、サイト側から「こんな商品もありますよ」というお勧めも加えられている。会員がいつも同じアイテムで飽きさせないようにする、賢い手段だ。このマンパックスは、「日用品のネットフリックス」と呼ばれている。ビデオレンタルで人気になったネットフリックスは、いったん会員になるとどんどん次のビデオを注文するようになる。それと同じように、男性の日用品を便利な方法でいつも刷新できるということだ。くたびれた下着やソックスとは無縁でいられるという、心の安心を与えるサービスでもある。

これまでのオンライン・ショップとはひと味違ったこれらのサービスは、どれも「ショッピングが嫌いな」男性をターゲットにしたものである。世の中はデザイン志向でどんどんおしゃれになっているものの、買い物に行くのがイヤ、特に服を買いに行くのをただの時間の無駄と考えている男性はたくさんいる。そもそも、ファッションが苦手という向きも少なくない。そうした面倒くさがりの男性をおしゃれで清潔に仕立て上げるのが、これらの新しいビジネス・モデル。かたちにするのが難しい「心配り」をビジネスにした、なかなかイケる商売だと思う。


trunk_s.jpg

トランク・クラブ