2010.09.02形状から考える、新しいビジネス・チャンス
アップルのタブレット・コンピュータiPadを使われた方について、いろいろ取材する機会を持った。その中で面白いと思ったのは、タブレットという平たい形状がコンピュータの使われ方や人間関係をどう変えるのかという点だ。
もっとも顕著なのは、「自分と相手が同じ画面を覗き込むことができる」、あるいは「自分が見ていたものを、相手にすぐに手渡すことができる」ということだ。
コンピュータはラップトップであっても、画面とキーボードが直角のように接続されているために、まるで情報を相手から遮るような格好になっている。ところが、平らなタブレットではそうしたことがない。まるで紙のように相手と一緒にそれを見たりすることもできるのだ。
これを「情報の透明性」と呼んだ人がいた。スクリーンで遮られているとまるで壁ができているようなもので、隠れた向こうで何を書いているのか、何を見ているのかはわからない。
だが、平らで双方が上から覗き込むような関係性の中では、その画面に映し出されたものはふたりが「共有する」ものになる。この違いはずいぶん大きいのだ。顧客との関係、あるいは社内での人間関係の中では、この共有性はいろいろな次のステップに使えるはずだ。
プレゼンテーション・ルームのようなオフィシャルな形式では生まれない相手との関係ができると言う人もいた。通常、コンピュータを利用したプレゼンテーションでは、部屋を暗くした上、講演者はこちら側、聴講者はあちら側という場所分けをする。学校の教室と同じだが、そうすると両者の関係は何かお堅いものになってしまう。
それがタブレットだと、少人数で画面を覗き込み、ページを繰りながらお互いに話をしたりすることが自然とできる。「最後に質疑応答」といったような堅苦しい時間割も無視するようになる。タブレットという形状によって、ミーテイングも変わるのだ。
これはiPadですぐにアプリやブラウザーが立ち上がるという点と無関係ではない。画面をみんなで覗いていても、アプリケーションが動き出すのに時間がかかったりすると、その熱気は冷めてしまうだろう。すぐに見たいものが出てくるからこそ、興味が続くのだ。
情報を共有できることを利用して、これをクレジットカードのサイン画面に利用するというサービスを考案している会社もある。スクエアというサービスだが(https://squareup.com/)、小さなカード・リーダーを接続して、画面に値段を表示、そのままiPadを顧客に渡してサインしてもらう。
iPadでは、持つ方向によって画面が転換するが、それがこのサービスには役立つ。サイン画面の上下を意識せずにそのまま手渡せば、デバイスは上下が逆になっていても、画面は相手側にちゃんとした方向で表示される。
現在、クレジットカード会社が配るカード・リーダーはかなり高価なものらしく、小さな店やミニバンでランチを売るような商売には使えない。ところがiPadでこうしたサービスが使えるようになると、今までクレジットカードが使えなかった店も利用できるようになるのだ。
考えてみるに、そうした点でiPadは平たい形状と、アプリがすぐに立ち上がるとか画面が転換するとかいった機能性によって、うまい相乗効果が生まれるように設計されているのである。大したものだ。
形状の違いは、ひとりで利用する際にも感じられるものだ。手前にキーボードがないので、画面が近く感じられる。キーボードがあると、向こうにあるものをキーボードで操作しているという感覚が強くなるが、それがないと「画面を見ている」という意識の方が強くなる。能動的な操作よりも、能動的な読み取りの方に精神的な重心が移るのだ。
そうしてみると、iPadの形状からスタートするとまだまだ未知の使い方があるのではないかという気持ちがする。顧客との関係、教室での関係、会議での関係、あるいは店頭、路上、レストランでの使い方......。いろいろ想像してみると、新しいビジネス・チャンスも見えてくるかもしれない。





