米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2011.12.14売るモノよりも「売り方」が大切な時代

最近アメリカで大きなヒットを飛ばしたものは何だろうと考えると、デパートチェーンのターゲットが売ったミッソーニのファッションがある。

ターゲットは、日本ではあまり知られていないが、全米で1750店舗を運営するデパートである。デパートと言っても日本のような高級感のあるところではなく、ウォールマートがほんの少しだけアップグレードされたような雰囲気。基本的には量販店で、小売り商品を格安価格で売る。衣料から家具、エレクトロニクス製品、化粧品、洗剤まで、そして最近は生鮮食品まで扱っているという、何でもありのストアーだ。

そのターゲットは、「デザインに対する意識が高い」ことを今まで売りにしてきた。同じプラスティックのバスルーム用品でも、ドイツでデザインされたちょっとしゃれたもの、ユニークな笑いのあるものなどを売っていたりする。オリジナル開発商品もあり、大御所建築家として知られるマイケル・グレーブスがデザインする台所用品も有名で、湯沸かしケトル、メジャーカップやスプーン類、泡立て器など、グレーブスらしいフォルムと工夫が凝らされた商品が並んでいる。

こんな商品を売ることで、ターゲットは格安商品であっても、「ただの安物」を売るデパートではないという定評を得ていて、また客の方も「ただの安物買い」ではないという意識を持って、ここで買い物ができるというふうな関係が成り立っているのである。

そのターゲットが今年秋、イタリアのファッション・ブランドで知られるミッソーニと提携した。提携といっても、売る商品の数は限られていて、最初に店頭に並んだものがなくなっても補充しないという限定量、限定期間という制限付きの提携だった。

これがひどい人気を呼び、10月半ばに発売が開始した1日で、ほとんどの店舗で商品が売り切れた。オンライン・ショップもバックエンドのシステムが停止してしまうほどアクセスが殺到。こちらも数日内で商品が売り切れた。ミッソーニが格安で買えると楽しみにしていた消費者のほとんど(私も含め)は、実際の商品を目にすることもなく、買う機会を失ってしまったのである。ターゲットは、これまでも有名なデザイナーとのコラボレーションを行っているのだが、これほど売れたケースもなかっただろう。

売れた理由のひとつには、もちろんミッソーニの知名度もある。最近はユニクロやH&Mを含め、ファスト・ファッションと呼ばれる格安ファッション・ブランドでも有名デザイナーとのコラボが数々あるが、これだけエスタブリッシュされたブランドが登場することはあまりない。ミッソーニは、グッチやエルメスがこうしたコラボに決して手を出さなさそうなのと同じくらい、まさか格安デパートに登場するとは思えなかったのである。その驚きが大きかったろう。

また、事前のプロモーションもなかなか利いていた。高級感で押し通すのではなく、ミッソーニ独特のカラフルなパターン使いをヒップでパンクな感じに作り上げて広告写真を統一していたのが、実に前向きなメッセージとして伝わってきたのだ。

また、展開する商品の幅の大きかったことも魅力だった。女性ファッション(ワンピース、トップ、パンツ、コート、ジャケット)だけでなく、女児ファッション、文房具、クッションなどの家具類、靴まで、あらゆる価格帯の商品が幅広くあり、何か記念に買っておこうかという気にさせるようなラインアップだった。

また、商品の質がよかったことも驚きだった。遅ればせながら店に駆けつけた時に残っていたのは、女児用のセーターだけだったが、その素材の分厚さや柔らかさにはびっくりした。安物なので、きっと粗雑なマテリアルを使っているのだろうと覚悟していたところ、すっかり予想を裏切られた感じだ。

ターゲットのミッソーニ提携商品はあっと言う間に夢のように消えてしまったのだが、このできごとは現在のアメリカの消費者が求めている商品について多くを語っているように思われる。まず、今や闘いの舞台は完全に格安市場に移っているということ。定価での普通の買い物には、もう誰も見向きをしない。だが、ただの安物でも十分ではない。そこに工夫とか楽しさとか、興奮のようなものがないと、消費者は財布の口を開けようかという気にならないのである。

不景気のせいもあるだろう。売るモノもさることながら、売り方のセンスの良さが人々にアピールする時代なのだ。