米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2012.02.13スーパーボール観戦は、アメリカの伝統

先週の日曜日は、スーパーボールの開催日だった。いわずもがな、スーパーボールとはアメリカン・フットボールの決勝戦である。年に1回開かれ、全国から勝ち抜いてきた2つの強豪チームが対決する、アメリカ最大とも呼ばれるイベントだ。試合を中継するテレビの視聴率は40%を超え、テレビのニュースもこればかりという、国を上げてのお祭りと言っていい。

スーパーボールの時に必ず話題になるのが、試合中継の合間に流されるテレビ・コマーシャルだろうが、私がいつもこの時期に感心するのは、地元のごく普通の店の風景である。スーパーボールの観戦には典型的な楽しみ方がある。スポーツ好きは、やっぱり同じようなスポーツ好きと一緒に中継を見たい。だから、誰かの家に友達が集まって、大勢で大画面テレビの前に陣取り、大声で声援を送りながら見るというのが通例なのである。すると、そこに必要になるのがおつまみだ。ビール、ポテトチップ、ポップコーン、メキシカン・スナックのトルティーヤ・チップ、それにつける数々のディップ(ソースの類い)。子供が一緒ならば、クッキーだのキャンディーだのといった菓子類も取り揃えておくのがよろしい。

おもしろいのは、スーパーボール当日が近くなると、全米のスーパーマーケットやドラッグストアーで、こうした商品がぐっと前列にせり出し、格安のバーゲンになることである。ポテトチップやトルティーヤは巨大な袋で出ている。また、生鮮食品コーナーに行けば、ハンバーガーの材料だの、ピザだのといった食品なども、これ見よがしに並べられる。フライドチキンも人気だ。そして、人々は、こうした食品をせっせと買い込んでいく。試合が始まると、庭仕事も家事も忘れてテレビの前に座り込み、こうした食べ物を口に運びながら数時間を過ごそうというわけだ。そういう楽しみな雰囲気が、売り場からジワジワと伝わってくる。それほどのスポーツ・ファンでない私でも、盛り上がってくる気分に高揚しそうになってしまうほどである。

お気づきだろうが、これらの食品はからだに悪そうなものばかりである。すべて、アメリカ人の肥満問題の元凶になっている、高カロリー食品。スポーツをする人間は健康的だが、スポーツを見る側はけっこうこの手の人々が多い。しかし、このスーパーボールの日だけはともかく固いことは言いっこなし。おいしいが、あまりからだに良くないものを食べ、無礼講で騒いで、リアルタイムで試合を楽しむのが、恒例なのである。

もちろん、季節のイベントに合わせて店頭が変わるというのは、これ以外でもよくあることだろう。感謝祭、クリスマス、そして今ならバレンタインデー。目的に応じて、消費者が買いやすいように品物が取り揃えられる。だが、こうしたイベントとスーパーボールの日が異なるのは、雰囲気が重厚でないこと、堅苦しくないこと、即席っぽく、だいたいは価格の安いもので構成されていることである。それにお洒落っ気とか、ステキな感じというのはまったくない。それでいて、「さあ、みんなで騒ごうぜ」といったような、非常に「楽しみな」気分が感じられるように考えられているのがユニークなのである。

あまたあるスポーツ試合の中で、スーパーボールはごく普通の人がどうやってそれを楽しむかについて、ちゃんとした型がある。それも、わざわざ球場へ見に行かなくても楽しめるように考えられているのである。そして店の方は、その型を決して崩すことなく、毎年同じようなものを売り続ける。健康的になろうとか、おしゃれにやろうとか、そういった「しんどいこと」抜きなのが、客と店の相互了解のうちに成り立っていて、それがスーパーボールをリラックスして楽しむことに貢献しているのである。

ごく普通の人のスーパーボール観戦は、消費者と商売の両方にとって、アメリカのユニークな伝統なのである。