米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2012.03.13小さな個人がクリエーターの投資家となる、「キックスターター」

近頃、シリコンバレーやテクノロジー関係者の集まりでよく耳にするのが、「キックスターターで資金を募って......」というせりふである。キックスターターは、いわゆる「クラウド・ファンディング」というしくみを持つサイトで、ごく一般の人々から起業資金を集めて事業を興すのを可能にするものだ。たとえば、レストランをオープンしたいが、手持ちの資金がない。そんな時に、このキックスターターに自己紹介と共に、レストランのビジネス・プランやメニュー、どんな場所で開きたいかなどを細かく説明し、「このくらいの資金を募集している」という内容を書き込んでアップする。そして、人々からの資金を待つわけだ。こうした方法で、これまでキックスターターから生まれて大成功を収めたビジネスがいくつもある。例を挙げよう。

使いやすいiPhone用のドックを考案したエレベーション・ラボは、7万5000ドルを募集したところ、最終的には1万2521人の人々から、目標額の20倍以上の約146万5000ドルが集まった。日本円に換算すると、何と1億円を超える額である。この製品は、今年4月から出荷され、資金を出した人々の手元にも届く予定だ。

また、「The Order of the Stick」というマイナーなコミック・シリーズをひとりでコツコツ出し続けてきた漫画家のリッチ・バーリュー氏は、ニッチなファンに過去の絶版本を再刷して届けるための印刷資金が欲しいと訴えた。目標額が5万7750ドルだったところへ、実際に集まったのは125万4000ドル。これも1億円に届く資金だ。

キックスターターは、「クリエイティビティーをサポートして、見守ろう」というのが、謳いである。デザインやアートなどのクリエーターだけでなく、コンサートを開きたいとかCDを出したいというミュージシャン、演劇を公演したいという演出家、ドキュメンタリー映画を制作したい監督、カフェを開きたい若者など、さまざまな作り手が、ここでプロジェクトを上げて、資金集めをしている。

これを読んだ人々は、「ぜひ、このクリエーターを応援しよう」と思って、資金を出す。資金を出す見返りは、製品ができあがった暁に送ってもらえるとか、開店したレストランで食事ができるなど、いろいろだ。出す資金も10ドルから何1000ドルまで段階的になっていて、その見返りも投資額に合わせて定められていることがほとんどである。上述したiPhoneドックなら、いちばん安いドックがもらえる59ドルから、150個以上の多種のドックがもらえる1万ドルまで、10段階ほどの投資額が設けられていた。

クリエーターだけあって、プロジェクトを訴えるビデオや文面もなかなか見応え、読み応えがある。このサイトをブラブラ見ているだけで、ご時勢も伺え、いろいろなアイデアに刺激を受けるほどである。もちろん、資金を募ったものの、予定時間内に目標額が集まらず、プロジェクト不成立、ということもある。その場合は内容を練り直すか、新しいプロジェクトを立ち上げて、出直しだ。だが、資金が集まると、プロジェクトを提案した側は、責任を持って遂行するようプレッシャーもかかるわけで、進行状況を刻々と知らせたりしながら、完成をめざす。それを見守る側との間には、コミュニティーのようなものも生まれるわけだ。

従来、クリエーターと言えば、一部の成功したデザイナーやアーティストを除けば、「食っていけない」人々だった。それが、このキックスターターのようなプラットフォームが生まれたことで、自分のアイデアと腕を試す可能性が生まれたのである。キックスターターは、大げさなビジネスを立ち上げる必要なしに、プロジェクトが実現する場であり、個人が個人に投資するC to C的パトロンの場でもある。何よりも、これまで大企業や大資本が牛耳ってきた経済そのもののありかたをも変えそうな、楽しみな存在なのである。


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