米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2012.04.17簡単にできる、自分だけのカスタマイズが嬉しい時代

フェイスブックが先だって買収を発表したインスタグラムのサービスには、現在の商品開発についていろいろ学べることがある。

インスタグラムは写真共有のサービス・サイトである。スマートフォンで撮った写真を友人とシェアしたり、フェイスブックに上げたりすることが簡単にできるようになっている。ただ、写真共有と言うと今では同じようなサービスがたくさんあり、「またか」という印象がまず起こるだろう。だが、インスタグラムが大人気を得ているのは、ただの写真共有を「ちょっとカスタマイズしてできる」自分だけの写真づくりが可能なことが理由だ。

インスタグラムの技術を使うと、撮った写真を一瞬で加工することができる。たとえば、ちょっとザラザラとした表情を加えて風景を素朴な雰囲気にしたり、あせたセピア調に仕上げて懐かしいイメージを醸し出させたりといったことだ。普通ならば、プロのカメラマンが絞りやシャッター速度に工夫を凝らしてやること、また放置しておいた古い写真が自然に帯びてしまった色調を、フィルターの種類をボタンひとつで選ぶだけで、普通のユーザーでも簡単に作り出すことができるのである。

デジタルカメラが広まり、携帯電話でも容易に写真が撮れるようになって、確かに便利にはなった。だが一方で、写真のありがたさや大切さ、いとおしさのようなものが消えてしまったことを残念に感じている人は多いのではないだろうか。写真がゴミのようにたくさんあるので、撮る方も見る方も写真にはもう大した思い入れもせずに向かっていたのだ。ところが、インスタグラムのフィルターは、写真の大切さを再び思い出させてくれる。これはちょっとした驚きである。フィルターがかかっているだけで、その人が何かの思いを持って撮影し送ってくれたという感じがする。どんな気持ちで撮ったのだろうとか、それをどう伝えたかったのだろうか、といったことを、見る人は写真の向こうに想像するようになるのだ。ただのピクセルのデータに成り下がっていた写真が、また意味を持ってよみがえったといった感じだ。

重要なポイントは、これが実に簡単にできるようになっていることである。フィルターの選択肢もたくさんある。それを選ぶだけで、ユーザーはクリエイティブな気分を堪能でき、写真自体のコミュニケーション度も高まる。カスタマイズとはどうあるべきかを考える上で、これは重要なキーになるポイントだろう。

カスタマイズということで言えば、世の中にはもう十分すぎるほどのカスタマイゼーションがある。iPhoneのカバーだって自分好みのものが選べるし、着信トーンも何万と種類がある。しかし、そうしたものとインスタグラムの写真の違いは、次のような点ではないだろうか。まず、もう人々が期待もしていなかったところで実現されていること。これだけデジタル写真があったのに、インスタグラムが出てくるまで、こんなことが可能だとは思わなかった。そして、プロの技をまねていること。可愛いマークなど、できあいのものを選ぶのではなく、自分でクリエーションをしているという追体験がキーだ。また、ただの自分の好みや自己表現ではなく、相手へのコミュニケーションに関わっていること。コミュニケーションという要素に関わっていることによって、カスタマイズの意味がぐっと深くなるのだ。

多分世の中には、ちょっとしたカスタマイゼーションで人々の満足度が意外にも高くなるという領域が、まだまだ残されているのだと思う。


インスタグラム挿絵縮小.jpg

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