米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2013.02.18「自分データ」がモニターできるようになれば・・・

最近アメリカで盛り上がり始めている製品群がある。それは、自分の運動レベルを常時モニターする器具だ。日本でも一部の人々に知られているかも知れないが、そのひとつはナイキのフュ-エルバンドだ。時計のように腕につければ、その日歩いたステップ数を計測し、全体的にどれだけ身体を使ったかがわかるようになっている。それをコンピュータにつないで、インターネット上の自分のアカウントに入れば、過去の記録も見られる。「今週はちょっと運動量が足りなかった」とか、「自分と同性の年齢層の人々に比べると、平均は超えている」といったようなことがわかる。

フュ-エルバンド以外にも、フィットビット社など同じような製品を出しているところが2、3社ある。製品によっては、万歩計のようにステップ数を計測するだけではなく、消費カロリー数、そして睡眠の質までわかるようになっている。何時間もコンピュータの前に座ったままだと、振動して注意してくれるような製品まである。けっこう優れ機能ではないだろうか。これまでも、この手の健康モニター製品はあった。血圧を測るとか心拍数を測るといったものだ。そうした製品は、どちらかと言うと健康を害した人がこれ以上症状を悪化させないよう、気をつけるためのモニターだった。だが、現在出てきているのは、健康な人がさらに健康になる、あるいは健康を維持するための器具であるところが違っている。

見方によると、自分が決めた運動量を守るだけでは飽き足らず、それを数字で確かめなければ気が済まない人々が出てきたということかもしれない。いや、それ以上に、自分というデータをモニターするという、デジタル時代の心理の変化がわれわれにこうした製品への関心を高めさせていると言える。

いずれにしてもおもしろいのは、こうした器具が広まることによって、これから何が可能になるのかといった点だ。現在すでに起こっているのは、同じ器具をつけた人々がバーチャルグループを作って、互いに励まし競争しながらエキササイズをするということ。日本でもランニングが流行っているが、アメリカでもランニング、サイクリング、エキササイズに熱中している人々は多く、たとえ現実では顔を見合わせない相手であってもグループを作ってモニターした記録を競い合うのだ。

また、自分のことをデータ化して細かく観察できるので、それに合わせた食事計画なども行うようになるかもしれない。これまでならば、「ここ数日間はあんまりからだを動かしていないから、食べるものをちょっと控えめにしよう」と思っても、運動不足をはっきりとした数字で見ていないので、ついついごまかしてしまいがちだ。だが、モニター器具が数字でしっかりと運動量を表示するとなれば、事態は変わる。何でも、ダイエットをする際には、毎日体重やBMI値(ボディマスインデックス)を見ていると、それが頭にインプットされて、ダイエットを意識的に行うようになるという。それと似たようなことだろう。

データがどう再利用されるのかの将来も、ふたつの意味で興味のあるところだ。もちろんひとつは、プライバシーの観点からの懸念である。現在、これらモニターされたデータはインターネット上のアカウントに保存されている。それが十分に保護されているのかどうかは不明だ。
もし、ダイエット会社や睡眠薬の薬品会社、肥満の人、あるいは睡眠不足の人のグループをこれで特定できれば、自分のアカウントのページにあてつけたような広告が表示されるかもしれない。自分のデータが売り物になっているからだ。

だが、もっといい方法で再利用されれば、こんなことも可能になる。たとえば、運動不足になっている人に、低カロリーで栄養価の高いレシピを自動的に表示してくれたり、近所の散歩道やサイクリングルートを教えてくれたりする。テレビの前でじっとしたままだと、リビングルームのステレオシステムと連動して、思わず踊り出したくなるような音楽を流してくれるというシナリオもあるだろう。

現在は運動量やカロリー消費量、睡眠の質などがモニターできるだけだが、これからもっとたくさんの「自分データ」がモニターの対象になるに違いない。ここは、大きなアイデアとビジネスチャンスの宝庫なのである。