米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2013.07.18「エクスペリエンス経済」から「つながり経済」への変化

前回に続いて、旅行の話題を。ホテルのインターコンチネンタル・ホテル・グループが、現代の旅行者の変化をちょっと興味深い調査レポートとして発表している。そのタイトルは、『新しいキンシップ経済:旅行のエクスペリエンスから旅行の関係性へ』だ。キンシップとは、親族とか親しみといった意味だが、つまりは「つながっている」ことを示すもの。旅行に限らず、これまでのマーケティングでは「エクスペリエンス(経験)」が重視されていたのだが、これからは「つながり」が経済活動の中心を成すのではないかというのが、そのレポートの内容だ。いろいろ示唆があるので、ここに少し紹介したいと思う。

最近の旅行者は、Y世代と呼ばれる1975年から1990年生まれの若い世代や、60歳以上のリタイア世代が中心。世界のあらゆる場所が開拓されてしまい、さらにインターネット利用によって、知らない場所もバーチャルに経験してしまう時代になって、旅行先の目新しさだけではなかなか豊かな体験を味わえなくなっているという。

ことにY世代は、仕事をする上でもこれまでの世代とはまったく異なった行動パターンを見せる。時間に縛られるのがイヤ、同じ場所に縛られるのもイヤ。旅行をする際も、これまでの見聞中心の旅行ではなく、地元とつながれるような体験を求めているらしい。そうした中で、キンンシップ経済はつながりを理解し、そのつながりがどう形成されるのか、その形成をどうサポートするのかといったところで成功するかどうかがその勝敗を決定するという。

彼らは、旅行に出る前、つまり旅行プランを計画するところから、すでにつながりを重視している。旅行先や宿泊先などは、ソーシャルネットワークでの評判を重視する。ホテルの売り込みや価格なども決定に影響を与えるだろうが、彼らの情報収集において友達やソーシャルネットワーク上の知り合いが語っていることは最も信頼度が高いのだ。旅行先では、地元とつながれる組織やイベントを探すという。前回ご紹介したエアービー・アンド・ビーのような地元住民の家に泊まるのを仲介するシェア・エコノミー型サービスが大人気を得ているのも、その一端だろう。どこに行っても同じような部屋しか提供しないホテルよりも、地元の空気を感じられるからだ。旅行先では、地元のカフェを訪ねたり、地元のバーに顔を出したりする。確かに「W」など最近の若者向けホテルを観察すると、必ずと言っていいほどバーがある。夕方になるととても混み合っていて、そこでは旅行者と地元の若い住民が渾然一体としているのが常だ。

これを後押ししているのが、都市への関心である。辺鄙な田舎や未開拓な場所を訪ねるよりも、最近は都市が旅行先として選ばれることがますます増えているらしい。都市と呼ばれるところは、ニューヨークやパリだけでなく、これからどんどん増える。中国やインドなどでは、今後10〜15年の間に10数カ所のメガ級都市が生まれるという調査もある。人が集まるところ、おもしろいことが起こっているところとして、人々は都市へ出かけるのだ。そして都市のストレスを和らげるために、都市の中の緑や屋上庭園などの工夫も重要になるという。

そうした都市で「つながり」が促進されているという傾向は、すでに随所に見られるという。たとえば、イギリスのあるコーヒー・チェーンには店内に黒板があり、そのスケジュール表に誰でも地元のイベントが書き込めるようになっているという。旅行者であっても、興味のあるイベントがあれば見に行けばいいのだ。そこでも旅行者と地元住民とが渾然一体としているだろう。もはや旅行という「ハレ」と日常の「ケ」のちがいは、これまでほどにはないと言ってもいいのかもしれない。
ビジネスを営む側から見れば、いろいろな方法でつながりを促進することができる。
たとえば、ホテルならば、そこをただ旅行者のための場所とするのではなく、地元のハブとなるべく、アーティストの展覧会やパフォーマンスを開いたりする。レストランも、旅行者と地元住民両方にとって魅力的な場所にするといったことだ。

そして「つながり」は、サービスを提供するビジネス側とユーザーの間でも重視されるポイントだという。ユーザーデータを駆使して、その特定の個人ユーザーのためにカスタマイズされたサービスを提供することは、すでに広く行われているだろう。だが、このレポートで言及されている例はすごい。ある人がアウトドア関連ショップのREIに「今年一番のクリスマスのギフトアイデアは何でしょう?」とツイートしたところ、その人のために特別に作られたビデオが送られてきたという。しかも、そのビデオが制作されたのは1時間以内だった。そんなことがあれば、ユーザーも店に対して「つながり」を感じてしまうだろう。

BYOD(Bring Your Own Device)という、自分のデジタル機器を職場に持っていって使うというトレンドも、つながりを促進するために使えるらしい。ホテルならば、ユーザーが自分のスマートフォンから室内のテレビをコントロールしたり、ルームサービスを注文したりできるようになれば、そこにもつながりの契機が生まれるわけだ。

エクスペリエンス経済は、ユーザーがリニア(線状)にいろいろな体験をしていくというものだったが、「つながりの経済」はもっと複雑なサーキュラー(環状)な体験によって構成されているという。ことあるごとにソーシャルネットワークにアクセスして情報を共有し、旅行やイベントが終わってもつながりが続く。というよりも、つながりを続けるためにそうした情報共有をするのだろう。
このレポートは、旅行者を中心に調査したものだが、現代の社会やビジネスを考える上でのヒントが随所に込められているのだ。

レポート:
The new kinship economy:
From travel experiences to travel relationships