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2007.05.21心に響く体験を生み出す照明デザイン

 

戸恒さん

(有) シリウスライティングオフィス

 代表取締役/照明デザイナー/ 建築士

 戸恒浩人氏

住宅から、商業施設、景観照明まで幅広い照明デザインを手がけている

照明デザイナーの戸恒浩人さん。視覚的な演出に留まらず、

光を通じて人々の気持ちに働きかける環境をデザインしておられます。

人と場との間にエモーショナルな繋がりを生み出す戸恒さんは、

どのようにエクスペリエンスデザインを捉えているのでしょうか。

彼の光とデザインに対する考え方から探っていきます。

 

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照明デザインという仕事との出会い

街並みや文化に浸透する光の存在

 

--------戸恒さんが照明デザインの仕事をすることになった経緯を教えてください。

昔から星が好きだったので、天文学か宇宙工学の方向に進もうかと考えたこともありますが、大学は建築を専攻しました。直接お客さんと接して、 自分の行為が誰かを感化したり、喜んでもらったり、人と人とが密接に関係できる仕事がしたかったので。 最初はそれが建築かなと思っていたのですが、実際には自分の興味とはちょっとズレがあったんです。

そんなときに、インテリアの本を通じて面出薫さんのLPA(ライティングプランナーズアソシエイツ)を知りました。 建築家とコラボレーションする照明デザインという世界があることを知って、ピンとこれだと思いました。 それからLPAに入社して、本格的に照明デザインの仕事をはじめることになりました。

 

光への興味は、昔3年ほどベルギーに住んでいた頃に体験したヨーロッパ旅行が影響しています。当時、 場所によって太陽高度や昼間の光の落ち方など、光が違うということがすごく印象的でした。さらに、 光が違うと建物の色の塗り方が違ってきます。南へいくと建物が白くなります。光がとてもきれいなので、 ストレートな光が入ってきて色がすごく映えるんですね。逆に北へ行けば行くほど光は曇りがかります。 そうなると石造りのグレーがかったトーンの方が安定して見えるんです。光の違いが街並みに影響を与えたり、 光によってすべてが決まってくるといった感覚が、照明デザインの仕事に少なからず影響を与えていると思います。

 

 

住宅から街づくりまで、照明の切り口で環境を最適化する

 

--------照明デザイナーとしての戸恒さんの仕事の領域は具体的にはどうなっていますか。

ひとつはきれいな光を提案して、形にしていくデザインの仕事。もうひとつはコンサルティングです。 照明は単純にきれいという美的な切り口の他に、技術的な問題やエネルギーの問題、環境の問題に対応した計画になっている必要があります。

 

住宅では建築の設計者との仕事が多いです。最近は照明を重視したプロジェクトが多くなってきていて、 設計者が僕らのような専門に明るいパートナーを入れるんですね。私は建築の資格も持っているので、 その知識も使って提案をしています。図面をもとに方針を打ち合わせして、大体決まった時点で持ち帰り、 どのような器具と手法を用いて光を空間に落としこんでいくか検討していきます。 建築のディテールまで提案することもあります。照明の切り口で建築を一回整理してあげるんです。

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商業施設では事業者がクライアントになります。デザインに加えて、話題性のある光の装置を入れるといった付加価値が求められます。 どういうコンセプトで、どういう光をここでつくるかといった、光のコンセプトデザインから、器具の選定、システムの仕組みまで提案します。

住宅や商業施設だけではなく、街づくりにおける照明計画にも携わりますので、そういう意味では照明デザイナーの仕事はとても幅広いです。

 

光はかたちがないので、僕らの頭の中でいくら描けていても、お客さんは光ということに対して漠然としています。

また、その人の今までの光の経験によってイメージも違ってきます。新しい試みをする際は、 モックアップをつくって光の効果を小さく再現して検証する。照明デザインはそのように検証しながら進めていくことが大切です。

 

 

大切なのはデザインを主張することではなく、

そこに来た人にどんな気持ちになってもらうか。

 

--------m.c.t.はエクスペリエンスデザインという考え方を重視していますが、 戸恒さんが考えるエクスペリエンスデザインとはどのようなものですか?

僕自身の基本的なスタンスとして、自分のデザインや個性を押し付けるのではなく、 プロジェクトを主催している人にとって一番いい答えを出すことを大切にしています。だからプロジェクトによってその答えは違います。例えば、 商業施設における光はお客さんを呼び込むための広告的に受けるテーマが必要ですから、 そのテーマと一体となった光環境をつくりあげることが大切になります。住宅の場合はその光と何十年も生活を共にするので、 住む人にとってストレスのない、かつ気持ちの良い照明。メンテナンスがしやすいとか、実用性に対する配慮も大事ですね。

 

僕の場合、照明器具というのはなくて済むのであれば、いらないというのが前提なんです。もちろんきれいなペンダントや意匠器具は好きですし、 それらを演出手法として効果的に使用するのはありですが、必然性もないのに照明器具という人工物が無骨に見えてくるといやですね。 そこに来た人になんだかよくわからないけど気持ちよかったと思わせることがベスト。これが僕にとっての快感で、 デザインしていますということを自己主張しているのは好きじゃない。空間は明るいけれど、上を見たら照明器具が一つもついていない。 マジックみたいでしょ?そんな空間を光を通じてつくることが僕にとってのエクスペリエンスデザインかなと思います。

 

 

浜離宮恩賜庭園から紐解く戸恒流エクスペリエンスデザイン

 

--------これまでに手がけた中で特に心に残っている作品を紹介していただけますか?

e1 浜離宮恩賜庭園の“中秋の名月・灯り遊び”というタイトルのライトアップイベントでは、 ライティングによって昼間とは違う姿で浜離宮の良さを改めて見せてあげようと試みました。江戸時代の回遊式庭園なので、 その場面ごとの風景の変化を光によって演出しています。月をモチーフにしてストーリーをつくり、 7つくらい見るポイントを設定して、飽きずに楽しんでもらえる構成にしました。大掛かりなライトアップではなく、幽玄の光。 少しの光でもこれだけ楽しめるということをやりたかった。 高層ビル群からお茶屋を守るように蒼い光が浮いている場所があるんですが、同じ光だとつまらないので、 わざと光を5秒ごとくらいの周期でわからない程度に若干緑がかってくるようにしました。歩いていると、 どこかでふと色が変わっていることに気づく。現場にいると「あらあそこ色が変わってるわよ」「どこどこ?」 なんて会話をしているのが聞こえてくる。そのときに初めて浜離宮の構成を意識するわけです。橋の照明は、 橋の外側の水際にライトを吊るして、向こう岸から見ると水に映りこんでいるあかりが見えるようにしました。そうすることで、 橋を見たときに水を意識するように仕組んでいます。こちらの意図をわかってもらわなくてもいいんです。 その景色をきれいって思ってもらった瞬間に、水と奥にある木と橋、構図、構成を昼間よりももっと強烈に感じてほしい。 このイベントはただ演出したものを見てもらうのではなく、たくさん発見してもらうことによって、 より浜離宮との親近感を高めるということを、光を通して試みました。

 

--------今後、 戸恒さんが取り組んでみたいことは何ですか?

 

機会があれば、1つの都市景観全体をつくりたいですね。現状では建築をつくりあげても、土木は違うところが入ったりして、 一つの景観として見たときに統一感がなく、美しくありません。都市景観が境界線をはさんで全く違うことがありますよね。 そういうものを見るととても悲しくなります。街づくりというのは、境界を全てとってしまったときに、 何をつくるかということを考えるべきです。例えば、ヨーロッパは、建物に街灯がついていたりして、都市景観がよく考えられていますよね。 日本は一番技術が進んでいるのに、先進国の中で一番街路計画が遅れていますから、 そういう意味でそこにメスをいれて日本の街を変えていきたいです。

 

 

照明はもっと自由なツールに進化する

 

--------照明デザインのこれからについてどう考えていますか?

従来の照明は工事をしたら動かしたり、変化をつけたりすることのできない不自由なものでしたが、最近は制御技術が随分向上しているので、 調光ができたり、使う側が後から作り直せたり、使い直せたり、もっと自由なツールになると思います。 例えば、信号を送ることができるスイッチ一つで家全体の照明を遠隔操作できたり、電気が高ワットなものでなければ、 携帯できる照明ができたり。考え方でいうと、照明器具を後から取り付けるということが可能になるかもしれない。

フレキシビリティも大切です。あとで入れ替えができたり、いかに将来性があるかといった点を考慮することがますます重要になります。 最近映像を流す光スクリーンがでてきて、ソフトさえ入れ替えれば新しいものとして見えるような提案をしますが、デザインのアイディアも、 そういった方向が基準になっていくと思います。

具体的な例をあげると、今LEDがかなり注目されていますね。LEDはデジタル制御がしやすいという利点があります。 信号と電流を分けることができるので、最初にネットワークさえ入れておけば、違う場所から制御できるんです。 例えばアメリカから自宅の照明を携帯で消すことができるとかね。そういう自由なことができるインフラとして使えるようになれば、 照明に対する考え方が根本的に変わりますね。他には光がインテリアの素材になるということも考えられます。 携帯の画面で用いられている有機ELのように、非常に薄くて透明感があるものが作れるので、光る壁紙になったり、 光るじゅうたんや光るTシャツなんかも出てくるかもしれませんね(笑)。

 

 

日本の照明デザインは輸出品になる

 

--------日本の照明デザインはどうなっていくでしょう?

海外、特にヨーロッパでは新しい建物ができないということもあって、新しいことがなかなかできないんです。でも、 日本は新しい建物がどんどん建っていて、新しいことができる。日本が一番照明デザイナーとして活躍している人が多いですよ。 ヨーロッパですと照明デザイナーという職業はなくて、メーカーの照明技術者か、デザイナーではなくアーティストです。 彼らはぼくらのようにコンサルティングはやっていないんですね。

日本の方がいいですね。日本人がどんどん輸出されていますから、日本の照明デザインは車に次ぐ輸出品になると僕は思っています。

 

 

おすすめのエクスペリエンスデザインスポット

 

--------最後に戸恒さんおすすめのエクスペリエンスデザインスポットを教えてください。

かなり古いプロジェクトですが、新宿アイランドタワーが好きです。夜はとてもきれいで、異空間な感じがして、 非日常的な雰囲気があるのですが、その場所にいてとても落ち着くんです。 

埼玉アリーナの前にあるけやき広場も良いです。けやきの木があって、街灯があまりなくて、 足下の部分が光っているベンチが並んでいるだけなんですけれど、ちょうど良い明るさで、照度の効果だけではなく、 環境全体としてとても落ち着く計画になっています。

 

イサムノグチが設計した、札幌のモエレ沼公園も素晴らしいです。広い敷地に彫刻的な丘をつくったり、山をつくったり、 噴水をつくっているんです。実際に歩いてみると、ストーリーがとてもよくて、ちょうど良いところに丘があったり、高野が広がっていたり。 5時間くらいへとへとに歩き回って、帰るときにレンタルサイクルがあるのを初めて知ったんですけどね(笑)。 イサムノグチの戦略にまんまとはまって、歩きまわりました。そういう意味で、エクスペリエンスデザインが素晴らしいと思います。 写真だけではそれはもう本当に伝わらないですね。ぜひ実際に行って体感してほしいです。

 

--------ありがとうございました。

 

 

さいたまアリーナ:けやき広場

http://www.saitama-arena.co.jp/keyaki/

モエレ沼公園

http://www.sapporo-park.or.jp/moere/ 

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戸恒浩人氏プロフィール

1975年  東京都出身

1997年        東京大学工学部建築学科卒

1997年~2004年 株式会社ライティングプランナーズアソシエーツ

2005年        有限会社シリウスライティングオフィス設立

シリウスライティングオフィスHP

http://www.sirius-lighting.jp