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2007.06.22使い手の気持ちや生活に溶け込むデザイン

P1000820 GAKUDESIGN

 デザイナー・ GAKUDESIGN 代表 JIDA正会員

 バンタンデザイン研究所インテリア学部 非常勤講師

 大友学氏

 

 

 

デザインをする対象の“モノ”ではなく、完成した後の効果や作用に

興味があるというデザイナーの大友学さん。

クライアントとの対話の中から目的を見据え、

最適な効果と作用を生み出すための一番よいかたちを表現することを

大切にしておられます。

そんな大友さんの考え方に潜むエクスペリエンスデザインとは?

 

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良質なコミュニケーションからよいものが生まれる

―――大友さんの現在のお仕事の内容について、具体的にどのようなことをされているのか教えていただけますか。

“モノ”のかたちをつくるプロダクトデザインやグラフィックデザインと、デザインができるまでの仕組みづくりや全体のビジュアルの見え方、 方向性を考えていく“コト”のデザインであるアートディレクションなどをしています。

 

具体的にどのように仕事を進めていくかと言いますと、お客さんから依頼がきて、打ち合わせをするときに、まずその“モノ” を通して何がしたいかということを聞きます。 目的となぜ大友を選んだかという理由が明確にあるお客さんとのお仕事はモチベーションも上がるので、スムーズに進みますが、 その部分が曖昧な場合は難航することもあります。そういう場合は、これまでのお客さんに喜ばれたときの経験を総動員して、 まず自分なりに最適だと思う答えを探し出し、お客さんに提案をします。 きちんと目的を持って製品づくりをしているクライアントは実は少ないと思っているので、良い方向性へと導くスキルもデザイナーには必要です。 打ち合わせで方向性が決まったら、試作品をつくって、実際の製品が完成します。

 

―――お仕事の範囲や進め方において、他の事務所とは違うと感じる部分はありますか?

あります。ぼくはデザインを全くの素人の段階から始めたので、流通や製造の仕組みを知らないまま成り行きで独立してしまいました。 何も知らないところから始めたことで、人一倍猛烈な危機感があります。責任のあるものづくりをしなければいけないというプレッシャーの中で、 いつもぶっつけ本番で勉強をしながら進めてきました。経験豊富なデザイン会社とは違って綱渡り状態。でも、 お客さんには不安は見せたくないですし、それゆえの危機感があるからこそ、すごく勉強しますし、いつも真剣勝負です。

 

それから、お客さんとの打ち合わせを楽しく進めるように心がけています。連絡をとっている担当の方、工場でつくっている職人さん、 できれば関わっている全ての人とコミュニケーションをとりたいです。楽しんでつくっている、 喜ばせようと思ってつくっているという土台があるからこそ良いものが生まれるのであって、どろどろの関係の中でできたものは、 楽しい気分を与えるものにはなりませんから。

 

 

クライアントやエンドユーザーの感情にじかに触れ、

感じることで、デザインも変わっていく

―――デザインをする前の調査など、ユーザーのニーズを汲み取る上でどのような手法をとられているのですか?

実際に会ってお話を聞くことがぼくとしては一番やりやすいです。メールでのやりとりや、 ホームページから受けた印象と実際に会ったときに受ける印象は違って然るべきだと思っているんです。リアルにわかるためには、 面と向かって話すことが大切です。目が笑っていないけど、口が笑っているとか、眉間にしわを寄せているけど、 すごく話にのってきて嬉しそうとか、言葉ではなく、その場の雰囲気や人の感情が肌身で感じられる。“感情”を相手にするデザインなので、 感情をじかに感じられる環境でリサーチやお話をしていきながら、相手の想いをわかろうとする姿勢を大切にしたいと思っています。 そういった経験を積み重ねていくことによって、「ああ、こういうことを思っているんだな」って、ぱっとわかる。 自分自身の経験値の幅ができると思うんです。それが年の差によって表れてくる部分でもあるのだと思います。

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世の中が便利になったり、社会が豊かになったり、

目的を実現させていく上での表現手法

―――大友さんにとってのデザイン、またはエクスペリエンスデザインとは何でしょうか。

目的までをつくりあげていく行為そのものがデザインだと捉えています。ぼくはものが出来上がった後の、使う人がどう思うのかとか、 何も考えずに使えるまで溶け込んでいくものになっているかとか、その効果とか作用というものに興味があるので、 それまでの過程はプロダクトをつくる仕事でも、空間のプロデュースでも、何であってもいいんです。お客さんと一緒に考えながら、 進めていくプロジェクト自体がデザインだと思っていますし、デザインとはとどのつまりお役立ち業だと思っているんです。 アートは自分の感覚を何かに置き換えて表現し、色々な人に受け入れてもらえればなおOKというスタンスで良いのですが、 デザインは市場やエンドユーザーのことをしっかり踏まえた上でつくっていかないと商売になりません。 資本主義の市場の方式にのっとって、多くの人にモノが行き渡る仕組みを意識していかないと、 自分がつくりたいものをつくって満足するだけの自己満足のデザインになってしまいます。 人に使ってもらっていいと感じてもらったり、世の中が便利になったり、社会が豊かになったり、 そういう目的が多少なりともあるのであれば、そこに一番マッチした流通のさせ方や表現方法を用いないといけないですよね。 目的を見据えて、その結果の一因となる一番いいかたちをつくろうという気持ちでやっています。なのでどこを見据えるかによって、 デザインの考え方やかたちは十人十色になってきますし、必ずしもこれが正しいという答えはないと思うんです。

 

一つだけわかっていることは、相手があってのデザインなので、より相手のことを知ることが大切で、 相手が変わるとデザインの様も変わってくることに違いはないと思っています。そこに自分自身の個性なり、 解決方法の糸口や切り口をどう見つけるかということで、デザインを通して実現できることにも差が生まれてきますので、 引き出しをたくさんつくりたいとはすごく思いますね。

 

 

これまでに経験した感覚を集めた先にかたちがある

―――デザインのインスピレーションを得るときはいつもかたちが頭の中に浮かんでくるのでしょうか?

かたちではなく感覚が浮かびます。頭の中に暮らしの中で感じた感覚や感情を意識してため込んでいるんです。たとえば、 このクッキーの袋を触ろうとしたときの指先で感じる触感や、つかんだときの音、厚み、重さ、そういった感覚はある程度予想がつきませんか? 今まで何万個お菓子を食べてきた経験の中で、知っているはずなんですね。そうしてためてきた感覚を総動員していきます。 そうするとお客さんから相談があったときに、無意識にたまっていたものがぽんぽんぽんって思い浮かんでくるんです。

例えば、コップをデザインしてくださいと言われたら、コップを口につけたときの薄さや、唇が触れている感覚が情景と一緒に浮かびます。 氷がからんと入って、グラスに水滴がついている感じとか。ごくごく飲むときはコップを意識しないで飲み物に意識がいっていたり、 氷をくちびるでよけながら飲む感覚もある。もしくはコップというものを感じない方が飲み物はおいしいんじゃないかとか、 そういうことが頭の中にたくさん浮かぶんですね。

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美しいかたちの証明から人の気持ちと交わるデザインへ

―――これまで手がけた作品の中で、思い出に残っている作品をご紹介していただけますか。

仕事ではないですが、富山のコンペティションで入選したアルミの靴べらは思い出に残っています。 昔デザイナーとして本当にきれいなものをつくろうと意識して応募した作品で、それが認められたときは嬉しかったです。 自分のデザインがあながち悪くないなと思った原点ですね(笑)。富山の企業から商品化されるという主旨で、 富山の産業であるアルミという素材と鋳造用の砂型を使い、コストを抑えてつくりました。本当は金型を使ってつくるものなのですが、 コストが高いんです。それで、コストのかからない砂型について一生懸命勉強しました。 今思えばそれがデザイナーとしての第一ステップだったのかもしれない。その後から、下調べが大切だということがよくわかったし、 すごく勉強するようになりました。

 

シリコンゴム性の“GUMHOOK” という作品も思い出深いです。 バスタオルをひょいっと投げたときに引っかかってくれる巨大なフックがほしくて思いついたのですが、 大きなものだと歩いていて当たると危険なので、柔らかくしようと。柔らかくすればそのままの状態でバスタオルを引っ張っても、 ぶるんって取れるなとか、そういうことを思いついてつくりました。初めて製品化された作品でしたが、 自分の手を離れた工場で量産され、誰かに使われるという初めての経験が印象に残っています。自分のつくったものが、 知らない人たちに喜ばれて使われているということが、こんなに嬉しいことなんだと思いましたね。 娘をお嫁にやるような本当に不思議な気分です。かたちをつくる能力を認められたアルミの靴べらと違って、 みんなにいいと思われて買い取られて喜んで使われているという、新しい喜びを発見した作品です。

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江戸意匠展「床の間から日常へ」

―――現在進行中のプロジェクト、またはこれから始まるプロジェクトなどを通して、今後やっていきたいことなどはありますか。

あります。江戸意匠という江戸の職人さんとデザイナーがコラボレートして「床の間から日常へ」というコンセプトのもとで、 ものづくりをするというプロジェクトに参加しています。江戸の職人さんは驚くような素晴らしい技術を持っているのに、 伝統工芸にとどまってしまっていて、職人さんには失礼にあたるかもしれませんが、伝統と言われて悔しくないのだろうか? と思ったんですね。 古くから培われてきた技術ではあるのですが、もっと日常生活において普通に使えるものになればという想いから活動しています。 確かな職人さんの手と、確かな技術を持った工場と、かけるべき期間を経てできたものは、長く使えたり、使いやすかったり生活に馴染みます。 本当にいいものをちゃんとわかってもらう必要性がありますし、市場に流通していくことに意味があると思うんです。 まだ詳しいことはお伝えできませんが、今年の秋に展覧会を開催する予定です。

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大友さんの視点で選ぶエクスペリエンスデザイン

―――最後に、大友さんおすすめのエクスペリエンスデザインが感じられる場所やプロダクトなどありましたら教えてください。

ぼくは、変わらないものって実はすごいエクスペリエンスデザインだと思いますね。例えば、鉢植え。 外の環境を家の中に取り込むための道具ということを考えたときに、 じゃあ土ごと持ってくればいいんだという発想からできたものだとぼくは思っていて。それからずっとかたちが変わっていない。 変わらないものが全て良いものだとは言えませんが、もっと良くなるのではないかと試行錯誤を重ねても、やっぱり変わる必要がないものは、 実はすごい発明品なんだと思います。

 

他には、車の中ってエクスペリエンスのかたまりのようなものですよね。 人が全身で介在する空間をデザインすることはとても難しいことだと思います。車に乗ったときの座る角度とか、ハンドルを握る感覚、 距離感とか、さまざまな動作がありますよね。でも車に乗っていてあまりストレスを感じたことがない。ストレスなく普通に、 違和感なく使えるということはすごく驚異的なことだと思います。それを車レベルで実現しているということは、 全身レベルで違和感がないということなので、エクスペリエンスデザインの極みを感じる場所の一つです。

 

―――ありがとうございました。

 

 

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大友学氏プロフィール

[業務]

プロダクトデザイン

グラフィックデザインデザイン

コンセプトデザイン/ アートディレクション

 商品単体から構想・ 企画段階からのブランドづくりまで、クリエイティブを

 トータルに支援

[賞歴]

富山プロダクトデザインコンペティション2001 入選

富山プロダクトデザインコンペティション2002 入選

富山プロダクトデザインコンペティション2003 入選

商品化検討作品・ 富山プロダクト商品

デザインコンペティション海南2003 入選

第一回セキスイプロダクトデザインコンペ 準グランプリ

富山プロダクトデザインコンペティション2005 準グランプリ

経済産業省 グッドデザイン賞受賞

 

GAKUDESIGN HP

http://www.gakudesign.jp