米国マーケティング最新事情 - 瀧口範子

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2007.05.01ITの世界で活きる、文化人類学者の目

文化人類学と言えば、今やちょっと古くさい学問と思われがちだが、 文化人類学者や民族学者がIT関連企業で仕事をする例が増えている。

たとえばIBMでは、10年ほど前から研究所に文化人類学者を配属し、 人々がオフィスでどのように仕事をしているのか、どんな道具をどんな順番で使っているのかを綿密に観察して、 次のソフトウェア開発などに役立てている。 

あるいは別のIT関連会社ピトニー・バウズやインテルも、人類学者を雇い入れ、 自社や多社の職場でどんなソフトウェアが必要になるかといった判断に、彼らの調査を役立てているという。その結果、 便利な共同作業ツール、使いやすいメールソフトなどが開発されたという。

企業だけではない。 ロチェスター大学の大学図書館でやはり文化人類学者の知恵を借りて、教授たちが研究内容や作業内容を詳細に記録し、 それを共有できるようにして学内の利用者をサポートする方法を考案した。 

文化人類学者、民族学者の特徴は、相手をじっくり観察することである。しかも、 その観察に自分ができるだけ介入しないようにして、相手のふるまいを細部にわたるまで客観的に記録し、分析する。 なぜこの道具を使って、これを使わないのか。なぜこの人に伝えることを、あの人には言わないのか。どうして、 このルートでコピー機に行くのか。日常的な環境の中で起こる選択や手順を見ることで、 そこから浮かび上がってくる需要や問題点を引き出すのである。

ITのエンジニアは人が使える道具を開発するが、 文化人類学者はそれが実際に使われるようにすることができる」と、ある専門家は言う。また別の専門家は、 ITのエンジニアなら見過ごしてしまいがちな細やかな側面を、文化人類学者なら見いだすことができるという。 文化人類学者の視点を盛り込んで開発された道具やソフトは、社会的な層を含んでいるので、 よりビジネスの環境に合ったやり方で仕事を進めることができるように考えられている場合が多いという。   

効率主義、あるいは自動化主義に偏りやすいエンジニアに比べて、 文化人類学者は多種多様な質問を繰り返して、現実を把握しようとする。それに時間がかかるというのも特徴だ。だが、明解で論理的、 システム化されたアプローチを好むエンジニアがつくるソフトだと、ユーザーがそれに合わせることを強要する場合が多いが、 そうした結果を回避できるという利点がある。

観察したり、場合によってはユーザーのフォーカス・ グループをインタビューしたりするといったあたりは、 まさにデザイナーが行うオブザベーションやペルソナのリサーチで行われる手法にも通じるものだろう。IT関連の開発だけではなく、マーケティングの世界も、 文化人類学のやり方に学べるところはたくさんあるというわけだ。