デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2005.02.15ペーパー・プロトタイピング

ペーパー・プロトタイピングという手法をご存知だろうか?ウェブサイトなどをデザインするときに、早い段階から紙で画面のプロトタイプを作りテストする方法のことである。d_05_pp-example

ペーパー・プロトタイピングでは、ウェブサイトの各ページについて、画面と同じ配置を紙で作る。画 面を一揃い用意した上で、ユーザの役割をする被験者に課題をやってもらう。課題には「ホームページから出発して、商品の注文と会計をして下さい」など、はっきりした目的を設定する。開発者側はコンピュータの役割をして、ユーザがリンクをクリックする(紙の上で指す)のにあわせて、紙の束から次の画面を取り出して見せる。

つまりペーパー・プロトタイピングでは、紙の画面を使ってユーザの行動をシミュレーションするのである。これによって、ユーザの操作が開発者の意図通りか、最初に注目するのはどの記述か、思わぬところに迷い込まないか、などを知ることができる。

紙で作る画面は粗いレイアウトでかまわない。サインペンで枠線を引いて、その中にテキストやリンクを手書きで入れた程度で十分である。どちらかといえば粗い表現の方が、フォントや背景などのディテールに意識が向かないので、サイトの構成をテストするのに適しているといえる。ただしユーザに提示するテキストやリンクは省略せずに表示する必要がある。その情報の中に、思わぬ誤解や混乱の原因が潜んでいるかも知れないからである。

ペーパー・プロトタイピングは以前から、ユーザビリティテストの中でも開発初期から使えるツールとして知られていた。実は私は最初、画面をスケッチして人に見てもらうなんて当たり前?と、新たなネーミング程度にしか思っていなかった。しかし一昨年、ペーパープロトタイピングを推進しているキャロライン・スナイダーが出した解説書を読んで、考えを改めた。この手法のポイントは、開発者が画面スケッチ(プロトタイプ)について一切説明を加えず、ユーザに自力で課題を実行してもらうことにある。それによってユーザから見たときのサイト構成の問題点や記述の不正確さが浮き彫りになり、開発者がはっきりと問題点を把握することが出来る。しかも紙に描いただけのプロトタイプなので、一つのページの内容を複数のページに分けるような作り直しも容易である。簡単なテキストやリンクの追加であれば、一つのテストが終わって次が始まるまでにすぐ手で直すことが出来る。もしこれが完成度の高い画面だと、根本的な修正には大きな抵抗があるだろう。ペーパープロトタイピングは、修正への心理的な抵抗が少ない早い段階で問題発見ができるため、改良に結びつけやすいことが最大の利点なのである。

もう一つペーパープロトタイピングの面白い点は、数人で協力してできることである。コンピュータでプロトタイプを作るとどうしても個人の作業になってしまうが、一枚一枚の紙であればサイトの機能ごとにページ作りを分担できる。あるいはフレームのように画面の一部のメニューが固定している場合は、固定部分と切り替わる部分を分担作業で作ってもよい。プロトタイプを作るのにコンピュータを使わないため、HTMLを直接書くことに慣れていないような人にも参加してもらえる可能性がある。実際そうすることにより、コンテンツの構成をグループで検討できる利点もある。テストの様子を全員で観察することも含めて、ペーパープロトタイピングは紙のディスプレイを媒介にした情報共有の場を作っているのである。

すでに運用しているサイトの問題点を見直す場合には、画面のプリントアウトを切り貼りすればよい。以前、私がかかわっているある博物館のサイトを、初めてそのサイトを見る人にテストしてもらったことがある。そのときやっていた特別展について調べるという課題を設定したところ、答えになるページがサイト内にあるにもかかわらず、先に外部の関連情報へのリンクに行き着いてしまうという結果になった。また「休館日は毎週月曜日、月曜日が祝日のときは翌日」という記述があったのだが、5月の連休中の開館日を調べようとしたら第一週の月曜日も火曜日も連休で、火曜日が開館しているかわからないという不備も見つかった。このような問題がわかるだけでも、半日ほどの準備とテストにかかった手間のもとがとれるし、できればもっと前からこの方法を活用していればよかったとも思った。コンテンツ提供者と開発者が共同で、ユーザビリティのよいインタフェースを作るためにお勧めの手法である。

参考:Carolyn Snyder: Paper Prototyping, Morgan Kaufmann(2003)

邦訳:黒須正明監訳、ペーパープロトタイピング、オーム社(2004)