デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2005.05.16インタラクションの未来形

CHI(Computer-Human Interaction)カンファレンスはインタラクション技術の会議で、今年は4月はじめにオレゴン州ポートランドで開かれた。コンピュータとのやり取りを通して、人間にどのような快適さ、利便さ、楽しさ、創造性、安全性などをもたらすことができるかを共通の関心事として、デザインに関するアイディア、デモ、研究などが集められる。

CHI全体では400件あまりの発表やデモがある多彩な内容だが、最近の傾向としては世の中のユビキタス化、リッチメディア化に対応して、モバイル機器、空間の利用や、視覚に加えて触覚や聴覚を媒介にしたインタラクションなどが増えている。そのごく一部であるが、興味深かったものを紹介したい。

■紹介1--------------------------------------------


MITメディアラボの了戒公子(Kimiko Ryokai)さんは、I/O Brushというプロジェクトで聴衆を沸かせていた。彼女は「ペンのインクが出ていく時だけでなく、ペンの中に入っていった時も想像したら?」という着想から始めて、大きな絵筆の中に小さなカメラを組み込み、絵筆で触れた果物の色や布地の模様を吸い上げられるようにした。その色や模様をインクに使うと、ちょうど身のまわりの世界をパレットにしたように、タッチパネルにカラフルな絵を書くことができる。筆の中のカメラで動画を撮影すると、歩く虫やウインクする目も映像のインクとなり、筆で描いた跡には赤いテントウ虫が並んで行進している、という具合だ。また画面に塗った色を指で触ると、その色を採ったときの映像が出てきて、色がどこから来たのか種明かししてくれる仕掛けも用意している。

このプロジェクトは発想も斬新だが、一般のユーザに試してもらえるという意味での完成度も高く、メディアアートの有名な美術館であるオーストリアのアルス・エレクトロニカでも展示されたそうだ。研究面では、このシステムが子供にとって絵を描く心理にどう影響するかを観察している。I/O Brushで子供たちに自由に絵を描いてもらった後で、カラフルなマティスの絵を見せて「この色はどこから来るんだろう?」と聞くと、「あの子のセーターと同じ色だ!」というように、身の回りの世界と絵を結びつけて話すようになるそうだ。了戒さんは経験に基づく学習を説いた教育学者デューイの言葉を引きながら、実世界と結びついた創作活動の意義を強調していた。実際、このシステムを使って絵を描いている子供の楽しそうな様子には大変説得力があった。


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了戒公子さんのI/O Brush。身の回りの素材から色や模様を採って画面に描く。
(c)Kimiko Ryokai


■紹介2--------------------------------------------


テレコムイタリアとオリベッティがスポンサーになって設立したイヴリア(Ivrea, イタリア)のインタラクションデザイン研究所は、設立後5年ほど経った現在、ヨーロッパを中心に人材を集めて活発に活動している。今回出されていたプロジェクトの一つ、Michal Rinottのソニック・テクスティングは、キーボードのかわりに手のひらに握るグリップで文字を入力する装置である。グリップの上には全方向に傾けられるボタンがついていて、そのボタンを各方向に押すと対応する文字が画面に書かれる。面白いのは、ボタンを傾ける向きと強さに応じて音でフィードバックがあることだ。音は6つのアルファベットA, E, I, N, R, Vの発声で、たとえばAの音がするほうにボタンを持っていってから、少し斜めに動かすとBの文字に行き当たる。最初は時間をかけて練習する必要があるが、慣れるとアルファベットの発声の代わりに高さの違うクリック音だけを頼りに入力できるそうだ。入力の速さを求めるよりも、リズミカルな音のフィードバックで入力を楽しくするという意味での面白さがあった。

オーフス大学(Aarhus、デンマーク)のThomas Riisgaard HansenとAndreas Lykke-Olesenは、携帯電話を使ったデモを見せた。紙の上にペンで黒い円を描いて、その中に任意のシンボルを描いて携帯のカメラで撮る。すると携帯がそのシンボルを覚えていて、カメラを向けた場所に同じシンボルがあると、あらかじめ決められた動作をする。たとえばハート形のシンボルを地下鉄の路線マップに結び付けておいて、地下鉄の駅でハート形にカメラを向けると路線マップが画面に出てくるというようなものだ。携帯のカメラでシンボルを撮影するという発想は2次元バーコードに似ているが、コンピュータで生成するバーコードでなく、自分なりの手書きのシンボルを任意の情報に結び付けられるところがよい。またカメラを円に向けたまま携帯を水平に動かすと、携帯の側では自分が動いていることがわかる。それを利用して、携帯をワイヤレスマウスのように使ってパソコンの画面をbluetoothで動かすという芸当も見せてくれた。携帯の性能アップに伴い、多様な動作をするようカスタマイズできるという面白い例である。

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Hansen(右)とLykke-Olesen(左)は携帯をワイヤレスマウスのように使って後ろのスクリーンの画面をスクロールしてみせた。