デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2005.11.15カジュアルゲームに見る演出

9月15日に東京大学ゲーム研究プロジェクトと国際ゲーム開発者協会(IGDA)日本支部の招きで、エリック・ジマーマン(Eric Zimmerman)の講演会があった。東京ゲームショウ2005の前夜であり、また最近の著書ルールズ・オブ・プレイ(Rules of Play)の評判が高いこともあって、講演会には若手ゲーム開発者が多数参加した。


ジマーマン氏はゲームのデザインについて、プレーヤーが意味を読み解いていく経験を作ることだと説明した。「辞書が言葉の意味のネットワークで出来ているように、ゲームも意味のネットワークでできている。あるアクションをすると何が起きるかを試すことで意味のネットワークがわかってくる」。ユーザの経験を中心に考えることはどの分野のインタラクションデザインでも強調されることであるが、ゲームは意味を分かっていく遊びだとする見方には、ゲーム以外のデザインにも参考になることが含まれていると思う。

インタラクションデザインでは、ユーザがシステムと関わる一連のステップをシナリオと呼んでいる。シナリオはもともと舞台のシーンから来ている言葉だが、デザインでもメニューが変化したりユーザが入力したりするシーンの連続としてシナリオを捉える。そして適切なシナリオに沿って自然に進んでいくようにユーザビリティの観点からシーンを構成するのが、ユーザ中心のデザインの考え方だ。

一方ブランディングを得意とするデザインオフィスMETHODのケビン・ファーナム(Kevin Farnham)は、ヤコブ・ニールセン(Jacob Nielsen)らのユーザビリティ分析が強力に宣伝されていた頃から、インターネットには楽しんだり漠然と調べたりしたい人々もいるから、ウェブの評価をユーザビリティだけで決めるのは意味がないと発言してきた。ユーザビリティの面で十分満足できるサイトが増えてきた現在、その言葉はより強く感じられる。

舞台のアナロジーで考えると、シナリオは演出されて初めて観客の目に触れる。観客の目をひきつけるのは演出の力であり、上演されればシナリオはバックグラウンドに消えてしまう。もちろん演出がなりたつのは伝わるべきことが伝わるシナリオがあってのことだが、良いシナリオであればあるほど演出が活かされるチャンスがある。デザインの言葉で言えば、ユーザビリティの満足度が高いほど、ユーザの関心は演出に向くということになる。

ではインタラクションデザインの演出とは何だろうか。グラフィックやレイアウトは、照明やセットと同じく舞台の道具に対応するだろう。そうした道具に支えられてユーザの能動的な行動が刺激される時が、本当に演出が効いた時だ。例えばブログへのトラックバックなどはその例で、自分の行動によってもとのブログに新たな意味が加わる。それが楽しいのでますますブログを書き続ける動機が起きる。インタラクションデザインでの演出とは、ユーザを役者として、意味を知ったり作り出したりする一種の遊びを実現していくことなのだと思う。これは目的指向的なユーザビリティではカバーされない領域である。

ジマーマン氏が設立した会社Gamelab (http://www.gmlb.com/)は、20ドルほどでダウンロードしてちょっと楽しむカジュアルゲームを多く作っている。ダイナーダッシュ(Diner Dash)という人気のゲームは、レストランでウエイトレスが客を上手にさばくという単純なものだ。しかし次々来る客をほったらかしにしておくと怒らせてしまったりとなかなか気が抜けない。絵や音楽も含めて、結構楽しくはまってしまうゲームである。またループ(Loop)というゲームは、画面に飛んでくる蝶をマウスでくるっとループを描いて捕まえる、非常に単純なものである。同じ種類の蝶を2匹以上同時に捕まえないといけないのだが、そのループをどうやったらうまく描けるかが分かるには、頭と手を使う試行錯誤が必要だ。ループは無料で、インストール不要のShockwaveのゲームなので、一度試しに遊んでみられるようお勧めしたい(http://www.shockwave.com/sw/content/loop/)。

IGDAの2005 Casual Games White Paperによれば、北米のダウンロード販売のゲーム市場は2004年に1億ドル強で、前年比倍増とのことである。この中ではカジュアルゲームがコアのゲームよりも若干割合が多いようだ。またカジュアルゲームのプレイヤーは35歳以上の男女、しかも女性の方が少し多いと推定されているそうである。このような世代に楽しんでもらうことがプラスになるブランドにとって、カジュアルゲームの演出は大いに参考に値すると思われる。今後、楽しみながらウォッチしていきたい分野である。


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次 々来る客を手際よくさばくと得点が上がるダイナーダッシュ (Gamelab社)