デザインテクノロジーの最前線 - 桐山孝司

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2006.09.15情報デザインの新しい基盤技術

サイトの訪問者のナビゲーションやカタログのデザインなど、何らかの情報を効果的に伝え、有効に活用する支援をしようとするのが情報デザインである。これに近い言葉に視覚化(ビジュアリゼーション)があるが、視覚化はどちらかというと元になる自然現象があり、それを視覚的に理解するための映像を作ることだ。それに対して情報デザインは、もともと概念的な情報に形を与えて理解しやすくする作業なので、現象の視覚化に比べて自由度が高く、自ずと結果の良し悪しの開きも大きくなる。


情報デザインへの注意を喚起したという点でおそらく最も良く知られている人はエドワード・タフティ(Edward Tufte)だろう。広く知られるようになった彼の3冊の著書[1-3]では、情報を効果的に伝えるための原則を具体例とともに説明していて、読み物としても興味深い。タフティは例えばスペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故について、以下のように考察している[3]。チャレンジャーは1986年、非常に気温の低い冬の朝に発射されたが、上昇途中でタンクのOリング(オー・リング)から燃料が漏れて引火、爆発した。実はロケットの製造会社のエンジニアはOリングが低温で弾力性を失う問題を知っていて、打ち上げの前日にNASAに打ち上げ延期を提案した。そのとき彼らは根拠となる過去の打ち上げデータをNASAにファックスしていた。しかしNASAはこのデータを根拠不十分としてロケット製造会社に再考を求め、やりとりの末に結局前日深夜になってロケット製造会社が打ち上げに合意した。

このときNASAに送られた計13枚のファックスを分析すると、重要なデータが散在する形で書かれているのだが、肝心のOリング破損の危険と気温との関係を明示的に示す図がなかった。はじめからその関係を図にして送っていれば事故は防げた、というのがTufteの分析である。確かに限られた時間の中で、複数箇所に散らばっているデータから重大な結論を導かせることは難しい。この事故の背景には組織上の問題なども指摘されているようだが、少なくとも情報デザインの観点からは、データの提示方法に重大な問題があったといえる。

ところでTufteの著書では、上記のチャレンジャー号の場合もそうであるが、データから結論できることが一目瞭然となるように単純明快な一目で分かる図やグラフを使うという手法が繰り返し述べられている。しかし、視覚化のニーズはこれだけではない。大量のデータがある場合や、常に新しいデータが生じて流れ込んで来る場合、データの全容を一度に理解することはできない。またデータ間に複雑な関係があり、人間が一目で理解できる範囲を超えている場合も同様である。一目でわかる、ということが成り立たない中では、データに条件を課して絞り込んでいったり、見方を変えて表示させたりすることで次第にデータの性質が分かってくるようなアプローチが必要である。

このような認識から生まれたのが、ベン・フライ(Ben Fry)とケイシィ・リアス(Casey Reas)によるプロセッシング(Processing)というプログラミング言語である。この言語は2000年頃にMITで開発が始まり、現在まだベータ版の段階だが、すでに世界中に多数のユーザを得ている。Processingの機能は色々あるが、インタラクティブな情報デザインという点では、入力に対する反応をプログラミングすることを重視している。そのためマウスやキーボードからの入力はもちろんのこと、ビデオカメラからの入力機能なども組み込まれている。試しにパソコンにFireWireやUSBでビデオカメラをつないでProcessingを起動すると、すぐにビデオ画像を加工して画面に表示するデモなどを見ることができる。

ちなみにProcessingの開発者の2人は、東京タイポディレクターズクラブ(TDC)から2005年にインタラクティブデザイン賞を受賞している。その受賞で2人が来日した折にある研究会で一緒になり、彼らの目指している方向を聞く機会を得たのだが、特にプログラミング言語を高度化してビデオなどのメディアを扱うための準備に要する労力を無くし、デザイン上の試行錯誤に集中できるようにすることを強調していた。ReasはProcessingを開発した上で、それを自分のメディア作品に応用している。興味深いのは、彼がProcessingで作る作品がどれも視覚的に優れていて、目が離せないことだ。見飽きない作品になるまでには多数の試行錯誤があるのだと思うが、その繰り返しの早さ自体がProcessingの機能なのである。

またFryはProcessingを使ってバイオテクノロジー分野での情報デザインを推進している。彼はDNAの個人ごとの違いをどう表示するかという課題に対して、違いを区別するためのパラメータを変化させ、その結果をリアルタイムで画面に出すという解決方法を考え、実際に動いているシステムを見せてくれた。Tufteの著書に出てくる事例が印刷でのデザインを中心にしているのに対して、Processingはコンピュータを前提とした情報デザインが必要な新分野を開拓していくことと思う。情報デザインがこれから展開していく方向を知る上でも、一度見ておきたい言語である。

参考文献

[1] Tufte, E., The Visual Display of Quantitative Information, 2nd edition, Graphics Press (2001)

[2] Tufte, E., Envisioning Information, Graphics Press (1990)

[3] Tufte, E., Visual Explanations: Images and Quantities, Evidence and Narrative, Graphics Press (1997)


図:Ben FryによるDNAの個人差の視覚化(haplotype blocks)d_24_benfry_DNA_m